天敵スズメバチ王と政略結婚しましたが、食べられそうなのは私の心です 〜溺れるのは蜜か毒か〜
空の狩人
◇ ◇ ◇
蝶たちの艶舞が空へと消えていった、
その時だった。
ザァァッ……
一陣の風が吹き抜け、花々が一斉にざわめいた。
かと思えば――
何かが、真上を"滑るように"横切った。
それはまるで、透明な翅をもつ巨大な槍のようで――
「……っ!? あれは……!」
グリオンの瞳が鋭く細められ、翅が緊迫の音を奏でる。
「陛下ッ、オニヤンマですッ!!」
瞬時に張り詰める空気。
アザレオが即座にカミリアを抱き寄せ
鋭く命じた。
「撤退だ! 掴まれ、カミリア!」
「なっ――」
問い返す暇もない。
ヒュウゥッッ―――!!
鋭い音が、空を引き裂いた。
オニヤンマの翅が生む風圧が花畑の一角を薙ぎ倒す。
「くっ……!」
一行の目に映ったのは、異様に長い体躯。
陽光をぎらつかせる、ゴーグルのような緑の複眼――
まるで戦闘機のような流線形。
しかもその軌道は「見切った獲物の動き」に合わせ、巧妙に調整された角度を描いていた。
……つまり、狙った獲物は絶対に捕らえ、あの巨大な牙で噛み砕く。