天敵スズメバチ王と政略結婚しましたが、食べられそうなのは私の心です 〜溺れるのは蜜か毒か〜

「この地には毒もあるが、花もある。
奪うだけでなく、交わり、命を繋ぐ者たちがいる。……忘れるな」


思わず目をそらしてしまう。

まるで、いつか自分も……と夢想してしまいそうなほど、熱のある瞳に見つめられて、心臓が跳ねて――


蝶たちは未だ交わったまま舞い続けている。


「どうして蝶の女の子は、色んな男と交わるんだい……?
他の香り(遺伝子)が混じらないように……
君を、僕だけでいっぱいにするね……!」
「いやっ、もうっ、そんなに注がれたらっ…あふれちゃうのぉ……っ」
「僕だけじゃ、満足できない……?」


風に揺られ、光をまとい、花の香りを
吸いながら、恋の形を描いて。


(こんなふうに、誰かと繋がったら……どんな心地なのかしら)


妙な感情が胸をじんわり熱くした。

命の躍動。
愛の交歓。
甘さと艶が蒼天へ溶けていく。

ミツバチの姫は、ただその場に立ち尽くしていた。





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