天敵スズメバチ王と政略結婚しましたが、食べられそうなのは私の心です 〜溺れるのは蜜か毒か〜
「くそ……また現れたか。先日、我が軍が掃討したというのに」
アザレオの声に焦りが滲む。
どれほどスズメバチが勇猛でも、オニヤンマの巨体と腕力に押さえ込まれたら終わりだ。
「………」
オニヤンマは何も言わない。
その複眼には怒りも欲望もなく――
"狩る"という本能に操られた死神のようだった。
「……ッ、くるぞ!!」
ゴウ―――ッ!
鋼の閃きが音速で迫り、真横をすり抜けた!
カミリアの髪がふわりと宙に舞う。
「ひ……っ!」
かすっただけで皮膚が裂けたような錯覚。
本能が死を悟り、全身が硬直する。
「王妃を守れ!最優先だ!!」
「応ッ!」
グリオンが怒鳴り、ルーラがすかさず上昇。
カミリアを抱きすくめたまま、アザレオは林の奥へと突入する――!
「絶対に手を離すな。俺から離れたら
喰われるぞ」
「は、はい、…!」
風圧が背中をなぞり、複眼がまだこちらを見ている気がして……
非力なカミリアは、ただ祈るようにアザレオの胸に顔を埋めた。
(お願い、ルーラたちもどうか、逃げ
切って……!)