天敵スズメバチ王と政略結婚しましたが、食べられそうなのは私の心です 〜溺れるのは蜜か毒か〜
◇ ◇ ◇
「ようやく撒いたか……」
気付くと、風を切る音が遠のいていた。
なんとかオニヤンマから逃れ、
林の外れへ滑り込んだアザレオは
草の影に身を潜めて翅を休めていた。
「……ゼェ、ゼェ……大丈夫か、カミリア」
「……っ、はい…… 陛下、ありがとうございます……」
「おまえに怪我がなくて……っ、何よりだ」
その言葉に胸がじんわり熱くなる。
けれど安堵する間はない
「ルーラとグリオンは……」
「心配するな。あいつらは選りすぐりの兵士だ。あんなのに喰われるほどヤワじゃない」
少しだけ、ほっとする。
けれど肺が浅く酸素を求め、翅も足も、
まだ微かにふるえている。
(生きてる。陛下が、命を懸けて守ってくれたから……)
カミリアは、荒い息を吐くアザレオの横顔を見つめ、そっとその翅に手をそえた。
「陛下……重かったでしょう。私を抱えて……本当に、ありがとうございます」
「当然だ。お前に死なれると困る――」
バリバリッ、バリリッ……!
すぐ近くから響く咀嚼音が、ふたりの耳をつんざいた。