天敵スズメバチ王と政略結婚しましたが、食べられそうなのは私の心です 〜溺れるのは蜜か毒か〜
◇ ◇ ◇
火照った翅を冷ますように、涼しい風がカーテンを揺らしていた。
夜の王の寝室。
灯りを落とした寝室に、ふたつの影が淡く浮かぶ。
「……沁みますか?」
「いや……あたたかくて、心地いい」
カミリアの指先が、そっとアザレオの背をなぞる。
塗っているのは、フロライアの特産蜜――治癒力の高い蜜《マヌカハニー》。
「でも……翅の付け根がすごく赤くなってて……」
「お前を抱えて、全力で飛んだからな。
筋が張ってるだけだ」
「ごめんなさい……」
「謝ることじゃない」
鎧を脱ぎ、逞しい筋をあらわにしたアザレオの背中。
そこに、淡い金色の蜜が薄く光る。
それをカミリアが丁寧に塗り広げるたび――アザレオの翅が、わずかに震える。
「……っ、」
「やっぱり、痛いんじゃないですか……?」
心配そうなカミリアの声に、アザレオは小さく笑った。
「悪いな。翅ってのは、あまり人に触れられる場所じゃないんでな」
「??」
「……敏感、だ」
「……な、!」
カミリアの手が、ぴたりと止まる。