天敵スズメバチ王と政略結婚しましたが、食べられそうなのは私の心です 〜溺れるのは蜜か毒か〜
✿第二章✿
命のともしび
夏の終わり。
陽射しはまだまぶしいのに、風の中にはすでに秋の気配がにじんでいた。
「愛しのセミリーナ…どこにいるんだい……?」
ナラの木の枝先――
遅れて羽化したセミの男が、ひとり哀しい恋の歌を奏でていた。
彼の声はもう、セミの女たちへは届かない。
今や、林は秋の虫たちのリサイタル。
野原ではコオロギの男が石の上で、
コロコロと切ないバラードを響かせていた。
その声に惹かれたコオロギの女が、
葉の陰からぴょん!と跳ね出てくる。
「まあ……なんて素敵な声♡」
「君のために歌ったんだよ。
さあ……こっちへおいで」
「私のためのラブソング……もっと、
歌って…?」
やがて茂みの奥で、夜の艶やかなデュエットが始まった。