天敵スズメバチ王と政略結婚しましたが、食べられそうなのは私の心です 〜溺れるのは蜜か毒か〜
「いや。今夜はやめておこう」
「……あれ」
「お前のその顔、今は記憶に刻んでおきたい」
ふっと額をつけ、彼女の肩に顔を預けるアザレオ。
「それに……秋になってからのほうが
色々と"燃える"からな。秋はスズメバチの恋の季節だ」
冗談めかした甘い声。
しかし大きな身体が、微かにふるえていた。
(こんな陛下、初めてだわ……)
愛しさと、戸惑いと、焦がれるような温度。
けれどまだ触れない。
もう少しだけ、遠くて甘い距離――
その夜、ふたりの翅は、蜜の香りをまとったまま
そっと寄り添って眠りについた。