MYSTIQUE
 一郎は、またしても黙って俯き、青年は参ってしまう。
「同じこと聞くけど、さっきは、あんなところで何してたんだ?」
「帰れないんです⋯⋯」
「どういうこと?」
「その⋯⋯売春をして稼いでこないと、帰ってくるなと言われていて」
 まさかの言葉に、青年の表情が険しくなる。
「でも、未遂なんです!どうか、それだけは信じてください。だって、誰かにつかまるより先に、あなたが声をかけてくれたから⋯⋯」
 そう言うと、一郎は、顔を隠しながら、細い肩を震わせて泣き出してしまった。
 友人からボンボンとからかわれるだけのこともあり、青年は金銭的に困ったことは一度もない。
 自分の親の仕事を好きではないと思いながらも、その親に養われている身である。
 小遣い欲しさに援助交際をする女子高生が問題になっていた時代とはいえ、本当に生活に困って売春をしようとする子供⋯⋯しかも、男の子を、彼は初めて目の当たりにした。
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