ガラスの壁を越えて

第2章 すれ違いの日常

プロジェクトが進むにつれ、三人の関係は深まった。晶来が「三人とも名前が『あき』で始まるなんて、運命かも！」と冗談を飛ばし、皆で笑った。だが、晶菜にとって、それは苦痛の始まりだった。晶乃に惹かれる気持ちが強くなる一方で、自分のセクシャリティを隠すストレスが募った。オフィスでは、男性社員が晶乃にアプローチする姿を目撃し、嫉妬が胸を締め付けた。
今の時代ならではの障壁が、ここにあった。SNSだ。晶乃はInstagramで日常をシェアし、フォロワーは数千人。彼女の投稿には、ジムでのセルフィーや、友人とのディナーの写真が並ぶ。晶菜は匿名アカウントでそれを見ていたが、ある日、晶乃のストーリーに「最近のデート、最高だった！」という文がアップされた。相手は男性の影。晶菜の心は凍りついた。実際、それはただのビジネスミーティングだったのだが、SNSの断片的な情報が誤解を生んだ。
時間的・物理的なハードルも大きかった。晶菜の仕事はデッドラインが厳しく、残業が常態化。晶乃は営業なので、外出が多く、社内チャットでしか連絡できない。晶来はそんな二人を心配し、「あきな、あきのとランチ行かない？」と誘うが、晶菜は「忙しいので」と断ってしまう。家族の問題も絡む。晶菜の実家は保守的で、姉の結婚話が頻繁に持ち上がる。電話で「あなたも早く彼氏作って」と母に言われ、晶菜は言葉を飲み込んだ。
晶乃の方も、障壁を抱えていた。彼女は晶菜の仕事熱心さに尊敬を抱いていたが、晶菜の根暗な印象が近づきにくくしていた。価値観の違いも。晶乃は「仕事は楽しむもの」と考え、晶菜は「仕事は完璧にこなすもの」
業務内容の違いが、プロジェクトで意見の対立を生んだ。晶菜が予算の厳格さを主張すると、晶乃は「もっと柔軟に！」と反論。すれ違いが積み重なる。
晶来は二人の間を取り持とうとするが、自分自身の悩みを抱えていた。人事部として、会社の多様性推進を担当するが、上司から「LGBTQ+の話題は控えめに」と釘を刺される。彼女はバイセクシャルとして、社内で孤立を感じていた。