竜王の歌姫
アリサとユウミに指示を出し、カノンの身体を両脇から押さえつける。
身動きの取れなくなったカノンを、ルーシーは怒りのままに殴りつけた。

両の頬を打ち、腹を蹴り付け、悲鳴のように叫ぶ。

「いつもいつもいつも……っそうやってアンタが、欲しいものを奪ってく……!!」

そんな時、殴った拍子にカノンの髪から何かが外れて床に滑り落ちる。

それは安っぽい髪飾りだった。

「何よ調子にのってこんなものまで……っ」

怒りに任せて足を振り上げると、途端にカノンの顔色が変わる。
どこにそんな力が残っていたのか、アリサとユウミを振り払って、髪飾りを守るように覆い被さった。

「……何?
そんな安物が大事なワケ?」

惨めに這いつくばるその背中を蹴り飛ばす。
それでもカノンは床に張り付いたように動かない。
その姿にますますイラついて、何度も蹴り続けた。

「それならぶっ壊してあげるからさぁ、どきなさいよほら!早く!」

どんなに痛めつけられても、カノンは絶対に動こうとしなかった。

「あ、あのルーシー様……さすがに死んじゃうんじゃ……」

アリサとユウミが焦ったように言ってきても、止める気にはならなかった。
こんなもんじゃ足りない。まるで足りないのだ。

ぐったりとしたカノンの元にしゃがみ込んで、その髪を掴み上げる。
意識朦朧としたカノンの顔が、苦痛に歪んだ。

そんなカノンに向かって、ルーシーは叫ぶ。

「死ね……アンタなんか死ねばいい……!」

騒ぎを聞きつけた騎士たちに止められるまで、ルーシーはひたすらにカノンを罵り続けていた。




「もっと……飲まなきゃ。もっともっともっと……」

その日の深夜。
自室にて、ルーシーはぶつぶつと呟きながら、両手に握った大量の粒のような何かを飲み干した。

「……っあ゛……」

次の瞬間、崩れ落ちるように膝をついて、胸を押さえる。
その身体に張り巡った花のツタのようなものが、皮膚を割くように浮かび上がった。

苦しい。身体が焼けるように熱くて、呼吸ができない。
……でも、これで……

額に脂汗をかき、息を荒げながら、血走った目でルーシーは呟く。

「私は絶対に、カノンよりも優れてなくてはならないの」

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