竜王の歌姫
イルマを神官として引き入れたのは神官長であり、彼も本件に関与があったと見られている。
けれど神官長は、事件発生の翌日、死体となって必見された。
悲鳴を消すためか喉は焼かれ、内側から握り潰されたように心臓がひしゃげていた。

そしてラースの治療薬を運ぶ輸送隊が襲撃された時と同じように、現場には何の気配もなかった。

あくまで仮説でしかなかった―――魔術師の再来。
それが、いよいよ現実的なものとなった。

絶滅したと思われていた魔術師には、実はまだ生き残りがいて。
イルマは、その魔術師の1人なのではないか。

国の有力者たちが集う主要会議では、そんな推測が立てられた。

千ノ花の復活に加え、魔術師の存在は、竜人たちにとっての大きな脅威となり得る。
イルマの捜索と共に、引き続き注力して調べを進めていくことが決定したのだった。


(……イルマに覚えていた違和感は、間違いじゃなかった……)

「近いうちにきっと、面白いものが見られますよ」

カノンは、イルマが事件の前にそう言っていた事を思い出す。
それがつまり、千ノ花のことだった。

今も鮮明に浮かぶ、竜人たちが苦しみ、泣き叫ぶ姿。

(一体、それのどこか面白いというの?)

許せないと思う。
そして、千ノ花の恐ろしさも……こんなことは二度と起きて欲しくない。

そのためにも、一刻も早くイルマが見つかることを願うばかりだ。
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