竜王の歌姫
神官長らが立ち去ると、カノンの周りには先住の乙女たちが殺到した。

「ねえあなた、とっても素敵な歌声ね!
私、いつの間にか泣いてしまっていたわ」

「ええ本当にね!
それに、あの神官長が誉めることなんて滅多にないのよ!」

興奮したように捲し立てる彼女たちに、圧倒されるカノン。

「これからよろしくね、カノン!」

「……はい、よろしくお願いします」

両親を殺されて失った悲しみと痛みは、忘れることなどできないだろう。
それでもこの場所でなら、また前を向くことができるのかもしれないと、カノンは思った。

ルーシーは、そんなカノンの背中を殺意さえこもった瞳で見つめていた。

「……またなのね、また、ここでも……ああもう、絶対に許さない―――死ねばいいのに」



カノンとルーシーには、2人で1つの部屋が分け与えられた。
部屋の中には必要最低限の家具が置かれ、こじんまりとした雰囲気だ。

カノンは、先ほどから黙り込んだままでいるルーシーの後ろ姿を見る。
ここでは唯一の同郷者なのだから、変な蟠りはなくしてしまいたい。
これからは同室になるのだから、尚更だ。

「……ルーシー、改めてこれからよろしくね」

カノンの声に、ルーシーが振り返った。
眉間に皺を寄せながら、吐き捨てるように言う。

「……あんたさぁ、あんなことがあったのに、よく平然と歌えたもんよね」

「あんなこと、って……お母さんとお父さんのこと……?
……私だって、まだ2人が死んだなんて受け入れたくない。平然となんて、できなかったよ。
でも2人はいつも、私の歌を一番に好きでいてくれたから……きっと、私が歌うことを望んでくれるはずだって思ったの」

カノンの答えを、ルーシーは馬鹿にするように鼻で笑った。

「歌うことを望んでくれる……?
何それ、本気で言ってんの?

だってあんたの親は、あんたの歌のせいで殺されたのに」
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