もう一度、生きる
ジュースを飲んでからみんなと別れ、俺は家へと帰った。
玄関の扉を開けると、夕飯の匂いがふわりと鼻をくすぐる。温かい味噌汁、それからハンバーグ。
(あぁ、、、こうして温かい飯が待っているだけで、涙が出そうだ)
「おかえり、海斗」
母の声に「ただいま」と返す。
居間のテーブルには父もいて、新聞を広げていた。パン屋を営む父の手は角張っていた。
冷蔵庫から余りの塩鮭を取り出し、フライパンで焼く。そして炊きたての白ご飯に塩鮭を細かくほぐし、食べる。
父は「よく食べるなぁ、、、」と少し引いている。鮭ご飯は美味い。
「今日はバイトどうだった?」
「、、、大変だったけど、楽しかった」
答えながら、思わず自分でも驚く。
夕飯を囲んでいると、母が何気なく思い出したように口にした。
「そうそう、海斗。机の上のノート、あれ学校の?小林多喜二って名前が見えてね」
箸を止める。心臓がどくん、と跳ねた。
「あ、ああ。近代史の課題で、、、」
「へぇ、そんな作家さんいたのね。名前、ちょっと珍しいわね」
そうなのだろうか?
父は新聞から顔を上げて、少し疲れを滲ませながら笑った。
「海斗も本読むの好きだし、作家のこと調べるのは向いてるんじゃないか?」
味噌汁をすする。温かい出汁が体に染み渡る。
食後、自室に戻ると、今朝見たノートが机に置かれていた。
ノートが一冊。
帰り道で買った原稿用紙を取り出し、机の上に置いた。
ペンを持つと、不思議な程すらすらと言葉が出てくる。
学校で見た友人の笑顔も、町で見かけたアルバイトの女学生も、みんな題材になる。
別に社会を告発しようという気持ちはない。ただ、見たもの、感じたことを書くだけだ。
机の傍らに積まれているのは、かつて俺と闘ってくれた同志達の作品と、俺について書かれている本。後世の作家達が調べて書いてくれているらしい。
おはぎや鮭ご飯が好きだとか、銀行を解雇された時のことだとか。
俺について書かれている。書店で見付けた時は本当に驚いて、、、つい買ってしまった。
その本によれば、俺の遺体に母が泣き崩れ、「それ、もう一度立たねか、みんなの為にもう一度立たねか」と叫んだと書いている。
母は小さいが、心はでっかい人だった。
母の愛は海より深し。
(今の母さんも父さんも、大事にせねば)
しかも、俺の遺体を沢山の人が囲んでいる写真も載っていて、、、。
ご丁寧に遺体の説明まで書かれていて、自分のことなのに、いや、自分のことだからか、妙に冷静になって読んでいた。
< 4 / 4 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:3

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

良薬、恋に苦し

総文字数/12,431

恋愛(純愛)3ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
播磨国で薬師をしている十五歳の紫乃は、ある日、ならず者に絡まれていたハルと名乗る陰陽師に出会う。 飄々としていて、どこか掴みどころがないハルに成り行きで「僕の助手になってほしい」と頼まれてしまう。 「全て壊してしてしまおうね。これからどうなるのか分からないけれど、君は僕の傍にいるといい」 京に住んでいる宮仕えの陰陽師。飄々としていて掴みどころがない・安倍晴明。 「はぁ!?なんで気づかねぇんだよ!俺がどんな思いで……」 幼馴染でぶっきらぼうなツンデレ。安倍晴明のライバル陰陽師・芦屋道満。
春を待つ

総文字数/57,222

歴史・時代23ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
ただ、がむしゃらに生にしがみついた。 それは、熱くて、苦しくて、悲しくて、悔しかった。 貴方と、生きていたかった。 本当は、誰も死にたくなかった。 「仕方ないね」なんて、そう割り切れたら良かったのに......。 叫びは声にならず、願いは形にならず、誰にも届かなかった。 それが世界だった。 私の想い人は、神様になる人です。
亡者逃走中 in 現世

総文字数/55,508

恋愛(学園)25ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
かなり変な友達に囲まれながら、緩く仕事をしていた秦広王。 そんなある日、ポンコツ上司こと閻魔大王が地獄の門を閉め忘れて亡者達が逃げてしまう事件が発生!! 秦広王達の任務は『現世に逃げた亡者を送り返すこと』 「あぁぁぁぁ!!何で私が囮になるの!?」 十王の一人、変成王。 マイペースな苦労人で特に変成王からのからかいが鬱陶しい。人名は真宵。 × 「そら、危機感なさすぎでしょ」 サイコパスな同僚で十王の一人、変成王。 からかわれている時の変成王の反応を楽しんでいる。人名は楓くん。 × 「違うし!今月のバイト代入ったらまとめて払おうと思ってたんだよ!」 チャラい同僚で万年金欠の十王の一人、宋帝王。 隙あらばお金をせびってくる。その度に初江王に締められてるよ。 × 「人道に来てまでお友達作りとは、本当にのんきな奴だな......」 堅物な同僚で十王の一人、初江王。 ペットの豆柴のオムライスを溺愛している。いつもツンツンしているが、彼なりの優しさもある。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop