いつか、桜の季節に 出逢えたら

第１話 12月25日 生き返り

……ここは、どこなのだろう。

冷たくて淋しい、果てのない真っ暗な闇の中。

「……どう……か……お願……い……」

姿は見えないけれど、女の子の声がした。

体が、鉛のように重い。
起き上がるどころか、指先一つ動かすことができない。

肺が空気を拒むかのように、息ができない。
それに、とても寒い。
体の芯から冷えて、体が凍っているかのようだ。


右手にぬくもりを感じる。
誰かが、私の手を握っている？
その手は、小刻みに震えていた。

重たい瞼を、無理やり持ち上げるように、ゆっくりと目を開ける。

霞んだ視界が次第に明瞭になり、無機質な白い天井が見えた。
静かに瞬く蛍光灯と、見覚えのない天井。

耳を澄ますと、たくさんの人の声が聞こえる。
足音、何かのアラーム、聞き慣れない音たち。

どうやら私は、ベッドに仰向けに寝かされているらしい。
ふと目をやると、私の右手を握り、俯いて肩を震わせながら泣いている女性が見える。

乾いた喉から絞り出すように、かすれた声で話しかける。
「……あの……すみま……せん……」

一瞬の静寂の後、女性は顔を上げ、私を見た。
その瞳は涙で溢れ、頬を伝う涙の道がいくつもあった。

とても綺麗な人だなーーそれが最初の印象だった。

「エリカちゃんっ！？」

驚いたような、信じられないような、喜んでいるような、悲鳴にも似た声で、私を呼び、抱きしめる。

女性は立ち上がり、周囲に向かって叫んだ。
「先生、誰か、来てください！エリカが、エリカが、生きてます！」


すぐに、バタバタと医療従事者らしき白衣の人たちが集まってきた。
私を見るなり、みんな次々に驚いた顔をする。

その中から、年配の看護師らしき女性が、私の肩をポンポンと叩きながら呼びかける。
「タチバナさん、わかりますか！？」

「……？　はい」

理解はしていない。問われたから答えただけだ。

医師や看護師たちが、私の周りで慌ただしく動き回る。
心電図や酸素を測る機械を装着され、点滴が繋がれ、私はあっという間に「普通の」入院患者に変身させられた。

展開があまりにも速く、私は自分の身に何が起こったのかわからないまま、呆然と無機質な天井を仰ぎ見ることしかできなかった。