いつか、桜の季節に 出逢えたら

第7話 1月9日 変化

あの川に行っても何も思い出せないのだから、現時点ではもうお手上げだ。
学校に行けば、何か思い出せるだろうか。

特にやることがなくゴロゴロしていると、部屋の隅に落ちている靴下を見つけた。
使用前なのか、使用後なのか。
よくわからないので、一応洗濯することにした。

家の中で母の姿を探すが、どうやらいないようだ。
家の洗濯機を使うのは初めてだけど、まぁ、普通に使えるでしょ。

洗濯カゴの中には、洗う前の洗濯物がたくさんあった。
全部まとめて洗っちゃえ。
カゴに中にあるものを全部洗濯機に入れ、最後に自分の靴下も入れて洗濯開始のボタンを押す。

洗濯が終わるまで、リビングで過ごす。
お菓子を食べながらテレビを見るが、やっぱり何も思い出せないや。


ーー洗濯が終わったようだ。
カゴに取り出そうとする時、たまたま二階から降りてきた紫苑に、声をかけられた。

「何してんの?」

「自分の洗濯物があったから、まとめて洗っとこうと思って」

「は?」

「いや、だから、まとめて洗濯したんだよ」

「それ、俺のもあるじゃん」

「ん? あってもいいじゃん」

私は、なぜ紫苑がそんなことを言うのか、理解できなかった。

「お前は、男の下着を洗濯しても、何とも思わないのかよ」

「ん? だって兄なんでしょ? 家族なんだから普通じゃないの?」

紫苑が、呆れ顔でため息をつく。

「あのな、俺は兄ということにはなってるけど、血は繋がってないの! 気にならないわけ?」

私としては、血が繋がっていようがいまいが、覚えていないわけだから、ただの家族としか捉えていなかった。
だから、別に分けなくてもいいと思っていた。

「だって、紫苑くんは、私を”家族”として見てくれてるわけでしょ? だったら、いいんじゃない?」

紫苑が、ますます呆れ顔になる。

「そりゃそうだけど。じゃあ逆に、お前の下着を俺に洗濯されて干されても、何とも思わないのかよ?」

私は、少し考えてみた。

「……あー、それは確かに抵抗あるかも! ごめん!」

なぜだかわからないけど、自分に家族がいることが嬉しくて、深く考えていなかった。

私が笑っていると、紫苑が言った。

「記憶がなくなるだけで、なんでこんなに性格変わるんだよ。前のお前は、自分のものは絶対に誰にも触れさせなかったんだけどな……部屋で干すからって。ほら、俺のはいいから、自分のだけ持っていけ」


洗った靴下だけを持って二階の部屋に戻ると、確かに窓の近くに、下着くらいは干せる空間があった。

ーーこういうところか。私が家族の和を乱していたのは。
とはいえ、確かに年頃の男女が同居するとなると、こういう問題は仕方がないのかも。
自分の事とは全く思えないが、過去の私の一欠片は、理解ができた気がした。
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