いつか、桜の季節に 出逢えたら
一度死んだとはいえ、拘縮しているわけではないのだから、リハビリなんて不要だと思っている。

だけど、後遺症が出るかもしれないとか、一時的に動けなくなっていた影響があるかもしれないとか、いろいろな理由があって、リハビリが課されているらしい。

適切な姿勢や筋力の確認がメインだけれど、ストレッチやマッサージがあるのは、嬉しいところではある。


一通りのリハビリが終わり、部屋のドアを開けると、そこには知らない男の子が立っていた。

「……あ、どうも」

咄嗟に出たのが、その言葉だった。
というか、それ以外の言葉が出なかった。

身長は、私より10cmくらい高い気がする。
手足が長くて、スタイルが良い。
髪を整えていないのに、無造作な感じがオシャレに見える。
端正な顔立ちのせいだろう。

「……スマホ、持ってきたんだけど」

紙袋を差し出してきたので、受け取る。


「あっ、ありがとう。あの……お母さんは?」

「さっき、飲み物買いに行くって出てった」

…………。

会話が続かない。

あまりこちらを見ようともしないし、無愛想な人だな、と思った。

「ね、そこ、座んなよ。家からわざわざ持ってきてくれたんでしょ? お母さん帰ってくるまで、休んでいったら?」

これから一緒に暮らす兄なんだから、良き人間関係を築かなくては。

「……あぁ」

兄は一瞬、不思議そうに私を見たが、椅子に腰掛けて黙ってスマホをいじり始めた。

沈黙の中で、兄となる人の顔を見つめる。
色素が薄い髪、鼻筋が通っていて、スッキリしたフェイスライン、涼しげな目元がが印象的。
まつ毛も長くて、肌もきれいだな。

さすがは母の遺伝子……と言いたいところだが、塩対応なところは全然似ていない。

「……あの、これからも、よろしくね」

「……あぁ」

兄は再び、不思議そうに、珍しい生き物でも見るような目で私を見た。
ーーなにか変なこと言ったかな? まぁ、いいけど。


「ねぇ、これからあなたのことを何て呼んだらいい? お兄さん? にぃさ……」

と言いかけた時、病室のドアが開いた。


「絵梨花ちゃん、帰ってたの? ほら、飲み物を買ってきたの。何を飲む? あ、紫苑(しおん)も来てたのね。持ってきてくれて、ありがとう」

母がテーブルに、りんご、みかん、乳酸菌飲料、水など、飲み物を次々と並べていく。

「俺、もう帰るから。これもらってく」

兄は、ペットボトルの水を取り、そのまま病室から出ていった。


「もう、紫苑ったら。無愛想でごめんね。でも、悪い子じゃないのよ」

「はい」

なんだか変に距離があったような気がするけど、悪い人のようには見えなかった。
これから家族として仲良くできたらいいなと思う。
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