ぶーってよばないで!改訂版
ぷるる、ぷるる――。
静かな部屋に、携帯電話の音が響いた。
寒くてベッドから出られない。こんな朝早くに、誰よ……。

ベッドサイドの携帯に手を伸ばしたけれど、届かない。
「あとで掛け直せばいいや」と夢に戻ろうとしたところで、さらに大きな着信音。
まるで「今すぐ起きなさい」と急かされているみたい。

重い体をなんとか動かして、やっと携帯を手に取る。
「……はい、もしもし」
寝起きのかすれ声。まだ夢の中にいるみたいに頭はぼんやりしている。

「ぶー。聞いて……」
その一言で、一気に目が覚めた。

電話の相手は、幼なじみの美島瑛里。
私と瑛里は同じ日に、同じ病院で生まれた。赤ちゃんの頃からの付き合い。
ママ同士が仲良しになったおかげで、春はお花見、夏はバーベキュー、秋は山登り、冬はスキー……家族ぐるみでずっと一緒に成長してきた。

でも――私は瑛里が苦手!
見た目も性格も正反対、趣味だって合わない。それでも「幼なじみ」という枠で結ばれているせいで、離れられない。

「聞いてる?ねえ?ぶー、ぶーっ!」
「だから、いい加減“ぶー”って呼ばないで!」

私が太り始めた頃から、瑛里はそう呼ぶようになった。
昔は「瑠璃ちゃん」って呼んでくれていたのに。
人を見た目で呼ぶなんて、本当に意地悪。

「ぶー、拓也ったら酷いんだよ」
急に甘えた声。これは瑛里の常套手段、気を引きたい時に必ずこうなる。

「……何があったの?」
「突然“お前重たい”って」

まただ。いつもの展開。
「それでね、ぶー。私のこと嫌いになったから、もう別れるって。ぶー、どう思う?」

「……」

「ぶー、聞いてる? ねえ? ぶー!? ぶーーーーっ!」
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