ぶーってよばないで!改訂版
【羽田空港国際線ターミナル】
お待たせいたしました。
全日空205便ウィーン国際空港行きにご搭乗のお客様、ただ今、28番ゲートよりご搭乗を開始いたしました。
アナウンスの声が、広いロビーに響き渡る。ざわめきとキャリーバッグの車輪の音。人々の足音が少しずつゲートへと吸い込まれていく。
「周ちゃん、ウィーンへ行っても元気でね!」
「真瑠璃ちゃん、僕大丈夫かな?不安だよ…。」
周ちゃんは眉を寄せ、子どものように小さな声でつぶやいた。
「大丈夫!周ちゃんならしっかりやれる!」
私は、強くうなずいてみせる。
「あーん、真瑠璃ちゃん。」
「私が、パワーを授けよう!えい!」
私はそっと周ちゃんの手を取った。大きくて温かい手。この手から生まれるピアノの音色は、きっとこれから世界中の人たちを幸せにしていくんだ。
「これは?」
「周ちゃんにプレゼントだよ!」
「可愛い!」
手のひらに乗せたのは、私と周ちゃんと瑛里をイメージした手作りのぬいぐるみキーホルダー。少し不揃いだけれど、心を込めて作った大切なもの。
「周ちゃん。私、あれからずっと考えたよ。周ちゃんのこと。」
「うん。」
「私は、周ちゃんのことが大好き!」
「本当に⁉︎」
周ちゃんの瞳が、一瞬にしてきらめきを増す。
私は胸の奥をぎゅっと押さえるように、ゆっくりと言葉を続けた。
「でもね、それは周ちゃんのことをピアニストとして、同級生として大好きな気持ち。」
「……。」
「だから、これからもずっと、同じ仲間として仲良くしてもらえたら嬉しい!だめかな…。」
周ちゃんへの、私の素直な気持ち。
もしかしたら、周ちゃんのことを傷つけてしまうかもしれないけど、これが私の答えーー。
私の言葉に、周ちゃんはほんの少しだけ目を伏せた。
そっとあげた顔は、ぎこちない笑顔にみえた。
「真瑠璃ちゃん、ありがとう!僕が出発するまでにお返事くれたんでしょ?」
「うん。私、周ちゃんがいなくなるってわかってから、ずっとずっと周ちゃんのことを考えたんだ。」
「ありがとう。」
「周ちゃん!ずっと、ずっと仲間でいてね!」
「僕からもお願いします!ずっと、ずっと真瑠璃ちゃんは僕の大切な仲間さ!」
周ちゃんの目にあふれる涙。震えた声ーー。
悲しませてごめんね。けれど、これが私の正直な気持ち。
これからも、ずっとずっと、大切な仲間だよ!
――まもなく、全日空205便ウィーン行きの最終搭乗案内を終了いたします。ご搭乗のお客様は、お急ぎ28番ゲートまでお越しください。
「周司さん、そろそろ行きましょうか?」
「本宮先生!リオン先生!」
「真瑠璃さん、周司さんお預かりいたしましたよ。きっと立派なピアニストになって、日本へ戻ってくるわね!それまで、真瑠璃さんも日本で一生懸命頑張っていてね!」
「はい!」
周ちゃんの鞄で、三人のぬいぐるみが小さく揺れた。
私たちの夢をのせて、世界へ羽ばたいていくんだ。
こうして、周ちゃんはウィーンへ旅立った。
ずっと応援しているよ、周ちゃん!
―――
「あれ?ぶー!周司は?」
「瑛里!ちょっと!もう、旅立ったよ!嘘でしょ⁉︎」
「ええ⁉︎こっちが嘘でしょ⁉︎周司の奴!逃げたな‼︎」
ムッと頬をふくらませる瑛里。なんでこんな大切な日に限って…。
「そうそう、これ。周ちゃんから預かったよ。」
「周司から?」
可愛い封筒に入った、一通の手紙。周ちゃんらしい、瑛里への贈り物。
―――
瑛里ちゃんへ
今まで僕と仲良くしてくれてありがとう。
瑛里ちゃんのピアノはとても素敵だよ。
僕は瑛里ちゃんのピアノが大好きだよ。
今までのように口喧嘩できなくなるのが寂しいけれど、また日本に戻った時には口喧嘩しようね。
追伸・いい加減、真瑠璃ちゃんのことを、ぶーってよばないで!
京田周司より
―――
「周司の奴……。」
瑛里は小さく笑い、手紙を胸に抱きしめた。その目の奥には、光るものがにじんでいる。
周ちゃんとのお別れは、あっけなくやってきた。
三人で過ごした日々はもう戻らないけれど、これからもきっと心の中で生き続ける。
瑛里もきっと、同じ気持ちだよね。
「手紙、なんて書いてあったの?」
「秘密!」
「え〜秘密なの?」
瑛里は大事そうに手紙を鞄にしまった。
しばらくは、二人の口喧嘩もおあずけだね。
「帰ろ……瑠璃ちゃん。」
「え⁉︎」
「だから!帰ろ、瑠璃ちゃん。」
隆也と一緒に居ないときに「瑠璃ちゃん」と呼ばれるのは、いったい何年ぶりだろう。胸がじんわりと温かくなる。嬉しいーー。
「そうだ、瑛里!プリクラ撮って帰ろ!」
「えー⁉︎いいの?やったね!ぶーと一緒にずっと撮りたかったんだ!」
「瑠璃ちゃんから、ぶーに戻ってる!」
私たちの高校生活は、静かに幕を閉じた。
周ちゃんのいない街は、やっぱり少し寂しい。
でも、私たちの青春は色褪せることなく続いていく。
私たちはこれからも、ずっとずっと最高の仲間!
またいつだって会えるよ。
「ぶー、早く行こ!」
「だから!人の話きいてる?何度言ったらわかるの?」
「何が?」
「だから!ぶーってよばないで!」
―――おしまい
お待たせいたしました。
全日空205便ウィーン国際空港行きにご搭乗のお客様、ただ今、28番ゲートよりご搭乗を開始いたしました。
アナウンスの声が、広いロビーに響き渡る。ざわめきとキャリーバッグの車輪の音。人々の足音が少しずつゲートへと吸い込まれていく。
「周ちゃん、ウィーンへ行っても元気でね!」
「真瑠璃ちゃん、僕大丈夫かな?不安だよ…。」
周ちゃんは眉を寄せ、子どものように小さな声でつぶやいた。
「大丈夫!周ちゃんならしっかりやれる!」
私は、強くうなずいてみせる。
「あーん、真瑠璃ちゃん。」
「私が、パワーを授けよう!えい!」
私はそっと周ちゃんの手を取った。大きくて温かい手。この手から生まれるピアノの音色は、きっとこれから世界中の人たちを幸せにしていくんだ。
「これは?」
「周ちゃんにプレゼントだよ!」
「可愛い!」
手のひらに乗せたのは、私と周ちゃんと瑛里をイメージした手作りのぬいぐるみキーホルダー。少し不揃いだけれど、心を込めて作った大切なもの。
「周ちゃん。私、あれからずっと考えたよ。周ちゃんのこと。」
「うん。」
「私は、周ちゃんのことが大好き!」
「本当に⁉︎」
周ちゃんの瞳が、一瞬にしてきらめきを増す。
私は胸の奥をぎゅっと押さえるように、ゆっくりと言葉を続けた。
「でもね、それは周ちゃんのことをピアニストとして、同級生として大好きな気持ち。」
「……。」
「だから、これからもずっと、同じ仲間として仲良くしてもらえたら嬉しい!だめかな…。」
周ちゃんへの、私の素直な気持ち。
もしかしたら、周ちゃんのことを傷つけてしまうかもしれないけど、これが私の答えーー。
私の言葉に、周ちゃんはほんの少しだけ目を伏せた。
そっとあげた顔は、ぎこちない笑顔にみえた。
「真瑠璃ちゃん、ありがとう!僕が出発するまでにお返事くれたんでしょ?」
「うん。私、周ちゃんがいなくなるってわかってから、ずっとずっと周ちゃんのことを考えたんだ。」
「ありがとう。」
「周ちゃん!ずっと、ずっと仲間でいてね!」
「僕からもお願いします!ずっと、ずっと真瑠璃ちゃんは僕の大切な仲間さ!」
周ちゃんの目にあふれる涙。震えた声ーー。
悲しませてごめんね。けれど、これが私の正直な気持ち。
これからも、ずっとずっと、大切な仲間だよ!
――まもなく、全日空205便ウィーン行きの最終搭乗案内を終了いたします。ご搭乗のお客様は、お急ぎ28番ゲートまでお越しください。
「周司さん、そろそろ行きましょうか?」
「本宮先生!リオン先生!」
「真瑠璃さん、周司さんお預かりいたしましたよ。きっと立派なピアニストになって、日本へ戻ってくるわね!それまで、真瑠璃さんも日本で一生懸命頑張っていてね!」
「はい!」
周ちゃんの鞄で、三人のぬいぐるみが小さく揺れた。
私たちの夢をのせて、世界へ羽ばたいていくんだ。
こうして、周ちゃんはウィーンへ旅立った。
ずっと応援しているよ、周ちゃん!
―――
「あれ?ぶー!周司は?」
「瑛里!ちょっと!もう、旅立ったよ!嘘でしょ⁉︎」
「ええ⁉︎こっちが嘘でしょ⁉︎周司の奴!逃げたな‼︎」
ムッと頬をふくらませる瑛里。なんでこんな大切な日に限って…。
「そうそう、これ。周ちゃんから預かったよ。」
「周司から?」
可愛い封筒に入った、一通の手紙。周ちゃんらしい、瑛里への贈り物。
―――
瑛里ちゃんへ
今まで僕と仲良くしてくれてありがとう。
瑛里ちゃんのピアノはとても素敵だよ。
僕は瑛里ちゃんのピアノが大好きだよ。
今までのように口喧嘩できなくなるのが寂しいけれど、また日本に戻った時には口喧嘩しようね。
追伸・いい加減、真瑠璃ちゃんのことを、ぶーってよばないで!
京田周司より
―――
「周司の奴……。」
瑛里は小さく笑い、手紙を胸に抱きしめた。その目の奥には、光るものがにじんでいる。
周ちゃんとのお別れは、あっけなくやってきた。
三人で過ごした日々はもう戻らないけれど、これからもきっと心の中で生き続ける。
瑛里もきっと、同じ気持ちだよね。
「手紙、なんて書いてあったの?」
「秘密!」
「え〜秘密なの?」
瑛里は大事そうに手紙を鞄にしまった。
しばらくは、二人の口喧嘩もおあずけだね。
「帰ろ……瑠璃ちゃん。」
「え⁉︎」
「だから!帰ろ、瑠璃ちゃん。」
隆也と一緒に居ないときに「瑠璃ちゃん」と呼ばれるのは、いったい何年ぶりだろう。胸がじんわりと温かくなる。嬉しいーー。
「そうだ、瑛里!プリクラ撮って帰ろ!」
「えー⁉︎いいの?やったね!ぶーと一緒にずっと撮りたかったんだ!」
「瑠璃ちゃんから、ぶーに戻ってる!」
私たちの高校生活は、静かに幕を閉じた。
周ちゃんのいない街は、やっぱり少し寂しい。
でも、私たちの青春は色褪せることなく続いていく。
私たちはこれからも、ずっとずっと最高の仲間!
またいつだって会えるよ。
「ぶー、早く行こ!」
「だから!人の話きいてる?何度言ったらわかるの?」
「何が?」
「だから!ぶーってよばないで!」
―――おしまい

