無敵なお嬢様はだまっていられない! 〜問題児な執事4人を、私がまとめてプロデュース!?〜
 掲示板の前から、どうやってここまで戻ってきたのか、覚えていなかった。
 気づけば私は、特訓本部の自分の部屋で、明かりもつけずにベッドに座りこんでいた。
 手元のタブレットには、自分のテスト結果と、1位だった椿さんのスコア。
 何度も見直す。
 何度も見比べる。
 でも――結果は変わらない。
 私が執事たちの育成に使った時間の分だけ、自分の勉強の時間が減っていた。

「……エラー。私の……計算ミス……」

 ぽたっ、と。
 涙がタブレットに落ちて、画面がにじんだ。
 そのとき。
 デスクの上で、スマホが震えた。
 表示された名前を見た瞬間、息が止まる。

【お父様】

 胸が、ぎゅっと冷たくなる。
 震える指で通話ボタンを押すと、スピーカーから、感情のない声が流れてきた。

『……すず。今月の総合成績の結果、聞いたぞ』
「……はい、お父様。申し訳ありません。次は必ず――」
『次などない』

 その一言で、言葉が止まる。

『雪城の人間が、誰かに負けるなど、1位以外など――恥だ』

 胸に、冷たいものが突き刺さる。

『原因は分かっている。あの「問題児」どもに時間を使っているからだ』
「ち、違います! あの人たちは……私にとって、大切な――」
『黙れ』

 ぴたり、と空気が凍る。

『お前の「大切」など、どうでもいい。結果がすべてだ』

 息が、うまく吸えない。

『次の報告で1位に戻れなければ――
 あの執事たちは全員解雇。お前も本家に戻す』
「……っ!」
『以上だ』

 ――ツッ。

 通話が切れた。
 部屋の中に、静けさが戻る。
 聞こえるのは、自分の荒い呼吸だけ。

「……どうしよう……」

 声が、かすれる。

「私のせいで……みんなが……」

 もし1位に戻れなかったら。
 嵐くんも。レオくんも。夜一くんも。朔も。
 ――みんな、いなくなっちゃう。
 私が守るはずだったのに。
 「完璧」でいることで、守れていたはずなのに。
 その“完璧”が崩れたせいで、守る力まで、なくなってしまった。
 暗い部屋の中で、私は膝を抱えて顔をうずめた。
 考えなきゃいけないのに。
 いつもなら、すぐに出てくるはずの「答え」が――何も浮かばない。
 頭の中はぐちゃぐちゃで、ただ、マイナスな考えがぐるぐる回るだけだった。

 ――その時だった。
 静まり返った寮の廊下から、聞き慣れた――
 でも、この場所にはまったく似合わない「騒がしい声」が聞こえてきた。

「ちょっ、君たち! ここは男子禁制だぞ! 止まりなさい!」
「うるせぇ! 非常事態なんだよ! そこどけぇぇ!!」

 ドォォン!!
 雷みたいな音が響く。
 今の声……嵐くん!?
 私は弾かれたように顔を上げた。
 ドアの向こうで、警備員のあわてた声と、バタバタした足音が近づいてくる。

「警備員さん、そんなに怒鳴ると体に悪いですよ。ほら、このアロマでもどうぞ。……さあ、今のうちに」

 レオくんの、余裕たっぷりの声。

「……監視カメラ、全部同じ映像を流すようにしました。……センサーも、あと少しだけ止まります。……急いで」

 夜一くんの、小さいけど落ち着いた声。
 そして――バンッ!!
 部屋のドアが、勢いよく開いた。
 逆光の中に立っていたのは――
 肩で息をする嵐くん。
 タブレットを抱えた夜一くん。
 その後ろで、優雅に髪を整えるレオくん。
 そして。
 真ん中に立っていたのは、私の部屋の合鍵をくるくる回している朔だった。

「……すず。引きこもるには、まだ早いんじゃない?」
「な、なんで……ここ令嬢寮よ!? 男子禁制で、警備だって完璧なはずなのに……!」

「完璧?
 嵐が正面で暴れて、レオが受付を丸め込んで、夜一がシステムを止めた。
 ……計算上、穴だらけだったけど」

 朔がさらっと言いながら、私のそばまで歩いてくる。
 嵐くんはドアの横でドヤ顔だ。

「お嬢! 2位がなんだよ!
 メシも食ってねーだろ? 腹減ってたら、いい考えも出ねーぞ!」
「……そうです、お嬢様。
 糖分が足りないと、頭の回転も落ちます。
 ……ボクたち、お嬢様を“元に戻しに”来ました」

 夜一くんが、少しだけ自信ありげに言う。
 レオくんは私の前にひざまずいて、手を差し出した。

「お嬢様。こんな暗い部屋に閉じこもる必要はないよ。
 ……僕たちが、外に連れ出してあげる」

 ……みんな……。
 さっきまで頭に残っていた、お父様の言葉が、すっと消えていく。
 私の計算にはなかった。
 無茶で、めちゃくちゃで、でも――
 どうしようもなく頼もしい、四人。
 いつの間に、こんなに頼もしくなったのかしら。

「……さあ、行くぞ。
 “お嬢様の休日”、スタートだ」

 朔が私の手を引いて、無理やり立たせる。
 涙のあとが残っているはずなのに。
 気づけば、私は――少しだけ、笑っていた。
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