無敵なお嬢様はだまっていられない! 〜問題児な執事4人を、私がまとめてプロデュース!?〜
第6章
 学園の広い敷地が、年に一度、宝石箱みたいにきらきらと輝く日――「ロイヤル・ガーデン・パーティー」。
 国中の名家やセレブが集まる、大きな社交イベント。
 それは、私自身にとっても、そして執事たちにとっても絶対に逃げられない“最大試験”だった。

「失敗したら、全員即退学。……いいわね?」

 私が出した条件は、厳しくて、容赦のないもの。
 でも、ここまで来たら、もう後には引けない。
 あの日から、特訓本部の明かりが消えることはなかった。
 秒単位で組まれたスケジュール。
 何百人もの来客の動きを予測するシミュレーション。
 そして、それぞれの力を最大まで引き出す特訓。
 私の計算と、みんなの努力が重なって――
 ついに「その時」が、目の前まで来ていた。

「嵐くん、ターゲット接近。……北側30メートル、足元に注意して」
『ラジャー。……お嬢、見てな。空気みたいに支えてやるぜ』

 モニターの中で、嵐くんが動く。
 特訓を手伝ってくれている生徒が、ふらついたところをそっと支えながら――
 後ろで倒れかけたシャンパンタワーを、指先ひとつで止める。
 まるで、重さなんてないみたいに。
 前の“暴れん坊”な姿はもうない。
 そこにいるのは、すべてを守る“最強の守護神執事”だった。

「……夜一くん、今の情報。……西エリアの会話は?」
『……ログ送信完了。……好みの紅茶、機嫌、全部把握してます。……僕は今、椅子の影。……見つかりません』

 画面を見ても、夜一くんの姿はほとんど見えない。
 空気みたいに動いて、必要な情報だけを、確実に届けてくる。
 完璧な“透明スパイ”。

「レオくん、中央の空気が少し重いわ。……お願い」
『任せて。……僕の笑顔一回で、空気が軽くなるんだよね?』

 レオくんが歩くと、場の雰囲気がふわっと変わる。
 さっきまでピリついていた空気が、自然とやわらいでいく。
 彼の存在は、もう”平和維持財産”みたいなものだった。

「……素晴らしいわ」

 私は小さく息を吐く。

「3人とも、私の出した“最適な動き”を、しっかり再現してる……!」

 タブレットには、「All Green」の表示。
 すべて順調。
 完璧。
 パズルのピースは、全部そろった。
 あとは――
 それをまとめる「司令塔」が、指示を出すだけ。
 そう。
 ……そのはず、だったのに。

「――嵐くん、右前方! Bクラスの男子生徒、興奮してステップが乱れてるわ! このままだとお嬢様にぶつかる確率、94%! すぐに軌道修正して!」

 インカムに、私の声が鋭く響いた。
 嵐くんは、ほんの一瞬のスキもないタイミングで動いた。
 よろけた男子生徒の肩をそっと支え、そのままダンスの流れのように元の位置へ戻す。
 同時に、もう片方の手で令嬢役の女子生徒を、羽のように軽くエスコートし直した。

「ふぅ……。お嬢、今の指示、完璧だぜ! 助かった!」

 嵐くんが汗をぬぐいながら、にっと笑う。
 ……でも。
 ……おかしいわ。
 私の胸に、小さな違和感が引っかかった。
 今のトラブル、本来なら……私より先に“司令塔”が気づくべきだったはず。
 私は、隣に立つ朔をそっと見た。
 朔は無言でモニターを見つめている。
 いくつもの画面を開き、その中には――彼の父親が残した「伝説の執事マニュアル」。
 それと、今の特訓データを何度も重ねて、照らし合わせていた。
 まるで――“答え”を探すみたいに。

「……朔。あなたなら今の危険、もっと早く察知して指示できたはずよ。……何かあった?」
「……え?」

 朔が、はっと顔を上げる。
 その目には、いつもの冷静さがなかった。
 ほんのわずかな――戸惑いと、焦り。

「……朔。なんか変だぞ。いつものキレがねぇ」

 インカム越しに、嵐くんの声。

「……朔くん。……少し、迷っているように聞こえます」

 夜一くんの声も、不安そうに揺れている。
 三人は、それぞれ自分の強さを見つけて、完成してきている。
 でも――
 司令塔である朔だけが、まだ“正解”を探し続けていた。

「……わるい。ちょっと、頭冷やしてくる」

 朔は短くそう言って、うつむいたまま特訓本部を出ていった。
 その背中は、どこか小さく見えた。
 朔くんの判断速度、明らかに低下している。
 原因は……プレッシャーからの過剰な自己抑制。
 そして、“理想とのズレ”による負荷ね。
 ――つまり。
 ……自分を押し殺しすぎてるのよ。
 最近の朔は、「理想の司令塔」になろうとして、
 本来の自分を消そうとしているように見えた。
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