無敵なお嬢様はだまっていられない! 〜問題児な執事4人を、私がまとめてプロデュース!?〜
 扉に手をかける。
 外の澄んだ空気が、そっと肌をなでた。
 目の前に広がるのは、白薔薇学園の広大なガーデン。
 手入れの行き届いたバラのアーチには、無数のクリスタルが星のように輝いている。
 午後の日差しが木々をやさしい金色に染めている。
 その場にいた招待客たちが、一斉にこちらを振り返った。
 ――次の瞬間。
 さっきまでのざわめきが、すっと消えた。

「……注目度、ほぼ100%。……少し、静かすぎるわね」

 私が小さく呟くと、すぐ後ろから、落ち着いた声が返ってきた。

「……いいんじゃない。……それだけ、すずが目立ってるってことだろ」

 朔の声は、いつも通り気だるげで。
 でも、その奥には、ちゃんと余裕があった。

「……そのドレス、光に映えてる。……みんな、見とれて動けないだけだ」

 その一言で、不思議と胸のざわつきが静まっていく。
 私は一歩、前へ踏み出した。
 右前方には、嵐くん。
 壁みたいに大きな背中で、私の進む道を守ってくれている。
 左後ろには、夜一くん。
 気配を消すように静かに動きながら、周囲の様子を見ている。
 右後ろには、レオくん。
 やわらかな笑顔で空気をほぐしながら、場を自然に整えている。
 そして――後ろに一人。
 朔。
 ゆっくりとした足取り。
 どこか力の抜けた立ち方。
 だけど、その視線だけは鋭くて、会場全体をしっかり見渡している。

 ……大丈夫。……みんながいれば、全部うまくいく。
 そんな確信が、胸に広がった。

「……見て、あの方……雪城家のお嬢様よ……」
「……執事たちも、ただ者じゃなさそうね……」

 ざわめきが、波のように広がっていく。
 その中をまっすぐ進み、私たちは中央の噴水広場へとたどり着いた。
 ――そこで、足が止まる。
 目の前に立っていたのは。
 椿さんと――お父様。

「あら……ずいぶんと派手な登場ですこと」

 椿さんが扇子で口元を隠しながら、くすりと笑う。

「雪城さん。その方たち、本当に雪城にふさわしいの?
 どう見ても、品のない寄せ集めにしか見えませんわ」

 空気が、ピンと張り詰めた。
 お父様は何も言わない。
 ただ、無表情のまま、私たちを値踏みするように見ている。
 ――でも。
 もう、足は止まらない。

「……椿さん」

 私は静かに口を開いた。

「……『品格』っていうのは、誰かが決めるものじゃないわ。
 この場にいる人たちが、自然と感じるものよ」

 そして、背後を振り返る。
 四人の執事たち。
 ――私の誇り。
 その瞬間。
 後ろから、低く落ち着いた声が響いた。

「……雪城様」

 朔だった。
 ゆっくりと一歩前に出て、まっすぐにお父様を見る。

「……本日は、お嬢様の晴れ舞台です」

 口調はあくまで丁寧。
 でも、その奥にある意思は、はっきりと伝わる。

「その価値は、結果で証明します」

 短く、無駄のない言葉。
 けれど、それは確かに宣言だった。
 午後の光に包まれたガーデンで。
 私たちの「反撃」が、静かに始まった。
 
「……ふふ、口だけは達者になられたようですわね。でも――このパーティーは、『ただいるだけ』で務まるほど甘くはありませんわよ?」

 椿さんが扇子を閉じ、視線だけで合図を送った。
 その瞬間。
 一人の給仕が、不自然なほど早足でこちらへ近づいてくる。

 ……おかしいわ。

 次の瞬間だった。
 給仕の足が、芝生の小さなくぼみに取られる。
 体勢が崩れる。
 トレイが傾く。
 ――シャンパングラスが、宙に浮いた。

 ……来る!

 真っ赤な液体が、私のドレスめがけて飛び散ろうとした、その瞬間。
 インカムから、低く落ち着いた声が響いた。

「……嵐、右。……レオ、そのまま前に。……夜一、回収」

 短い。無駄がない。
 でも、それで十分だった。
 朔は動かない。ただ状況を見ているだけ。
 ――なのに。
 次の一瞬で、すべてが変わった。

「――っと、危ねぇな」

 嵐くんが一歩踏み出し、倒れかけた給仕をしっかり支える。
 その衝撃を、何事もなかったみたいに受け止めた。

「……ごめんね。ここは通さないよ」

 レオくんが私の前に滑り込み、くるりと回る。
 そして――

「……完了です」

 いつの間にか。
 宙にあったはずのグラスが、すべてトレイの上に戻っていた。
 夜一くんが、何事もなかったかのように立っている。
 一滴も、こぼれていない。

「……っ!?」

 椿さんの表情が、大きく揺れた。
 次の瞬間――
 会場から、大きな拍手が巻き起こる。
 まるで、最初から用意されていたショーみたいな、完璧な連携。
 私は静かにドレスの裾を持ち上げ、優雅に一礼した。

「……椿さん」

 顔を上げて、まっすぐに見つめる。

「……技術だけでは、ここまではできませんわ」

 一拍、置いて。

「……信頼があってこそ、です」

 背後では、朔がゆるく立ったまま、椿さんを見ていた。
 眠そうな目。
 でも、その奥は冷えている。

「……少し仕込みが雑でしたね。
 あの位置に窪みがあるの、事前に分かってましたね。動きが露骨すぎた」

 責めるでもなく、ただ事実を言うだけ。

「……まあ」

 ほんの少しだけ口角を上げる。

「……俺たちの前じゃ、意味ないけど」

 その一言で、完全に勝負がついた。
 椿さんは言葉を失い、顔を赤くしたまま背を向け、どこかへ去っていってしまった。
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