無敵なお嬢様はだまっていられない! 〜問題児な執事4人を、私がまとめてプロデュース!?〜
 けれど――まだ終わりじゃない。
 正面。
 ずっと無言だったお父様が、ゆっくりと口を開いた。

「すず」

 低い声。

「……今のような小手先で、私を納得させるつもりか」
「……まさか。最上級のおもてなしをいたしますわ」

 白薔薇学園のテラスには、午後の光が静かに降り注いでいた。
 柔らかな陽光。整えられた庭園。
 その中心――噴水近くの特等席。
 水流の振動や、水しぶきが影響するリスクがある席だけど、一番景色と空気がきれいな席だ。
 お父様は、ただ一人、動かずに座っている。
 周囲のざわめきすら、そこだけ切り取られたみたいに遠い。

「……雪城の名は、積み重ねてきた“結果”で成り立っている」

 鋭い視線が、私に刺さる。

「感情や偶然に頼るものに、価値はない」

 その一言で、空気が張り詰めた。

「……今の君たちからは、それが見えない」

 静かな断定。
 逃げ場はない。
 けれど――

「……そうかもしれません」

 私は、まっすぐに答えた。
 一歩も引かない。

「……でも。だからこそ、見ていただきたいんです」

 お父様の目を、正面から見つめる。

「……私たちの“やり方”を」

 一瞬の沈黙。
 そして。

「……いいだろう」

 短い許可。

「証明してみせろ」

 ――その言葉で、すべてが始まった。

 朔が、わずかに顎を引く。

「……嵐、足元。……夜一、風。……レオ、環境を整えて」

 淡々とした声。
 でも、その一言で全員が動く。
 嵐くんがテーブルを支える。
 夜一くんが風の流れを読む。
 レオくんが空気の“居心地”を整える。

 ――完璧な準備。

「……お嬢様」

 朔の声が、静かに届く。

「……あとは、あなた次第だ」

 私はティーポットを持つ。
 手は、震えていない。
 ――大丈夫。
 一人じゃない。
 紅茶を、注ぐ。
 トクトク、と。
 やさしい音が、静かに響く。
 揺れない。乱れない。焦らない。
 それは、“完璧な制御”じゃない。
 ――支え合っている安定”。
 カップが満ちる。
 私は、それを差し出した。

「どうぞ、お父様」

 お父様は、無言でそれを受け取る。
 一口、口にする。
 沈黙。
 長い、長い沈黙。

「……」

 ほんのわずかに、眉が動いた。

「……計算と違うな」

 低く、呟く。
 ……やっぱり、お父様には届かなかったかしら。
 そう思い、うつむきかけたそのとき。

「だが、」

 お父様が一瞬だけ、私を見る。

「バランスは崩れていない」

 その一言が、すべてだった。
 私はそっと口を開いた。

「一人では不完全でも、誰かとなら成立する」

 胸の奥が、熱くなる。

「それが、私の考える“完璧”です」

 お父様は、しばらく何も言わなかった。
 やがて——

「……及第点だ」

 静かに立ち上がる。

「……理論としては未熟だが、結果として成立している」

 それは、否定じゃない。
 つまり。認めた、ということ。

「……すず」

 背を向けたまま、言う。

「……そのやり方で、どこまで届くか見せてみろ」

 それだけ言い残し、お父様は去っていった。
 静寂が戻る。
 張り詰めていた空気が、一気にほどけた。

 終わっ……た? 今のは……うまくいった、ってこと……?

 思わず肩の力が抜け、盛大なため息がこぼれる。

「……ちょっと」

 すぐ近くから、呆れたような声。

「終わった途端それ? 珍しく、完璧の仮面が外れてるよ」

 朔だった。
 相変わらずの調子なのに、その表情はどこかやわらかい。

「だ、だって……!」

 言い返そうとして、言葉が詰まる。
 代わりに、ポツリとこぼれた。

「……ちゃんと、できたわよね?」

 自分でも驚くくらい、弱気な声。
 一瞬の間。

「……まあ」

 朔が小さく息をつく。

「今までで一番の、おもてなしができたんじゃない?」

 あくまで軽い言い方。
 でも。

「ちゃんと良かったよ」

 静かに付け足す。
 その一言に、胸の奥がじんわりと熱くなる。

「……そっか」

 自然と笑みがこぼれた。
 そのとき。

「お嬢ー! 終わったな!」
「ご無事で何よりです」
「最高にエレガントだったよ」

 3人が一斉にかけ寄ってくる。

「ちょ、ちょっと近い近い……!」

 囲まれて、思わず後ずさる。
 でも、みんなが笑っているのを見て、胸の奥がぎゅっとなる。

「みんな……」

 一度、息を吸って。

「最高だったわ! ありがとう!」

 満面の笑みを向けると、みんなは少し照れたように笑った。
 
「今日は特別に、みんなのためにも紅茶をいれるわ。ほら、カップを差し出して!」
「へえ。ずいぶん気前がいいね」

 そう言った朔の声は、なんだか楽しそう。
 気づけば、さっきまでの緊張なんて嘘みたいに消えていた。
 笑い声が、華やかなテラスに広がっていく。
 胸の奥に残るあたたかさを抱えたまま、私はもう一度カップに紅茶を注いだ。
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