きみと、まるはだかの恋
「うん」

 昴は、受付のある白い建物の中へと入っていく。その背中を追って、私も関係者のような心持ちでバックヤードに入れてもらった。
 いいのかな、と思ったけれど、他のスタッフは特に何も言わない。むしろ、またニヤニヤとした笑顔を浮かべながら見られているような。田舎のひとたちの寛大さと、こういうゴシップネタが娯楽になるのだという事実を改めて思い知る。
 バックヤードには、星空観察のためのレジャーシートや、足元を照らすライトなどの道具が整然と並べられていた。昴は棚の上にきちんと揃えて置いてあったノートを一冊取り出して、何やら熱心に読み込んでいる。ちらりと横から見ると、ノートにはびっしりと文字が綴られていて、ずっと見ていると頭がくらくらしてきそうだった。話しかけるのも憚られるぐらいの集中力だ。五分ぐらいして「よし」とノートをパタンと閉じたあと、私が隣にいるのを思い出したように「あ、ごめん」と小さく謝られた。

「今日のツアーガイドの予習をしていたんだ。何パターンかこのノートに書いてあるから、時期ごとにいろいろ変えて説明してる」

「へえ、そうなんだ。覚えるのめっちゃ大変じゃない?」

「大変だけど、勉強になることも多いし楽しいよ。今日はお客さんがどんな顔をして聞いてくれるかなって想像しながら予習してると、気持ちも乗ってくる」

「そっか。なるほど」

 自分の仕事について語る昴の瞳は活き活きと輝いていた。高校時代、大好きなバスケの試合でスリーポイントシュートを決めた時のようだ。彼はスリーポイントシューターだった。鮮やかな放物線を描いてゴールネットの中へ吸い込まれていく球を眺めては、何度その背中にときめいたか分からない。あの時も今も、昴は目の前の大好きなものに夢中になる時は少年のようにまっすぐなまなざしをしていた。
< 102 / 186 >

この作品をシェア

pagetop