きみと、まるはだかの恋
「城山さん、大事なこと教えてなかったんですね、かわいそう」

 星田さんは笑いながらも同情するような口ぶりだった。

「波奈〜そろそろ帰るぞ」

 役場のWi-Fiの存在を知ったところで、ちょうど昴が後ろから声をかけてきた。星田さんが「お疲れさまですー」と昴に向き直る。

「城山さん、海野さんにWi-Fiのことを教えてないなんてちょっとかわいそうですよー」

 くつくつと笑いながら昴の肩を軽く叩く星田さん。あんなふうに気軽にボディタッチができるなんてすごい。
 私は……昴が眠っている間に不意打ちでキスした時のことを思い出す。
 星田さんの軽いボディタッチと私のキス、どちらがやり手かって考えたら、全員後者だと言うに違いない。でも私にとっては、日常の関わりの中でドキッとする仕草ができる星田さんのほうが上手(うわて)だと思ってしまう。

「Wi-Fi? あ、ああ。そんなもんあったな」

 昴はどこか、ばつが悪そうに首をすくめる。確信犯だ、と分かった。
 昴は私に、わざとWi-Fiの存在を隠していたに違いない。そうでなければ、今この場で気まずそうな表情をするはずがないもの。

「昴」

 勇気を出して、昴の腕を掴む。星田さんが目を丸くして私を見つめた。自分でもなぜそんな積極的な行動に出られるのか分からない。星田さんという女の子が昴の近くにいるからかな——。

「役場に行こう」

 拒否権を与えないという圧をかけながらゆっくりと意思を伝えた。
 昴は、私と星田さんを交互に見つめたあと、ため息を吐いて「ああ」と頷いてくれた。
 不本意そうだけれど、今は昴の気持ちに構っている余裕はない。
 これからどんどん輝きを増していく星空の下、ツアーコンダクターの彼を引きずるようにしてロープウェイに乗り込むのだった。
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