きみと、まるはだかの恋
「常に神経をすり減らすような仕事ばかりだった。営業みたいに数字に追われるわけじゃないけど、やっぱりどんな仕事にも締切は存在するし、作業員の安全確保なんて命に関わることだからな。一瞬たりとも気を抜けないわけ」

 昴の言葉から、彼が東京で建築の仕事をしている様子を思い浮かべる。作業服は、農作業で着ているつなぎを想像した。ヘルメットを被り、書類とにらめっこしてスケジュールを考える。作業員さんの安全確保のために、工具の点検や現場の確認をして、毎日夜遅くまで働き続ける。
 どれだけ大変な仕事だろう。
 きっと体力だって相当必要なはずだ。
 でもそれは、星見里での農業だって変わらない。むしろ、体力は農作業のほうが使うのかもしれない。

「ここに引っ越してきて、農業とかツアーガイドとか畑違いの仕事ばかりで大変だけど、それでもあの頃より心が自由になった気分なんだ。毎日、自然の景色と美味しい空気を味わいながら仕事ができて、俺は幸せなんだよ。そりゃ泥まみれにはなるし毎日体力勝負だけどな。でも俺にはここでの暮らしのほうが合ってたんだ」

 淡々と語っているように聞こえるけれど、昴の心は熱く燃えている。そんな気がして、胸の中に確かな共感が芽生える。
 私も……私も、同じだ。
 この一週間、昴と一緒に泥まみれになってみて、確かにしんどいことの連続だった。でも同時に働いたあとの充足感は計り知れない。なにより昴がそばにいてくれることが、一番の励みになった。
 と同時に、私はインフルエンサーとしての仕事も夢中になってやっている。もしこの場所でインフルエンサーの活動ができたら一番なんだろうな、と考えて苦笑した。
 こんな田舎で、都会にいた頃と同じように働くことなんてできないよね。
 インフルエンサーの仕事は東京でなくちゃきっとできない。だからこそ、理想の暮らしと仕事との間にギャップが生まれて、身動きが取れなくなってしまうんだ。
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