きみと、まるはだかの恋
「私はさ、昴と一緒だからこそ、ここで暮らしてみたいって思えたんだ。実際住んでみて、星見里の空気って確かに美味しくて最高だなって。星空も、うまく写真で撮れないけど、なんとか都会にいるひとたちに伝えてみたいなって思ってる。昴が全部教えてくれたの……本当だよ」

 夜だからか、二人きりの車内だからか、自分でも驚くほど素直な気持ちがあふれ出ていた。昴が一瞬だけ大きく瞳を開いて私のほうを見る。それから、口を開いたり閉じたりして何かを言いたそうな雰囲気を醸し出した。「どうしたの」と尋ねると、「俺さ……」と彼はそっとつぶやく。

「高校のころ、本当は波奈のこと好きだったんだ」

 好きという二文字が、好きなひとの口から出てくることに、こんなにも胸がときめくのかと初めて知った。と同時に、その「好き」が過去形であることに気づいて、すぐに鈍い痛みが押し寄せる。

「好きって……本当に? でも昴、まなかと付き合って……」

「あれは……。波奈が俺のこと好きじゃないだろうって思って、諦めたんだ。諦めかけてたところに、まなかから告白された。俺、卑怯だからさ。まなかと付き合って、波奈への気持ちを忘れようとしたんだ」

「……うそ」

 十年前の出来事が信じられなくて言葉を失う。
 あの頃、昴への想いを拗らせて告白できないでいた私のほうこそ、昴は私のことなんて好きじゃないのだと諦めていた。その矢先に昴がまなかと付き合いだして、私の恋はいよいよ儚く散っていったのだ。
 それなのに、本当は両想いだったなんて……。
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