きみと、まるはだかの恋
 思わず、昴の横顔を凝視する。
「まなかと付き合って私への気持ちは忘れられた?」って訊いてみたい衝動に駆られた。でも、できない。そこまでの勇気を私は持ち合わせていなかった。

「まったく俺は馬鹿だったよ。まなかに失礼だったし、結果的にあいつのことも傷つけちまった。……それから俺は恋をしてない」

「恋してない? 十年も?」

「ああ」

 沈黙が訪れる。昴が、高校時代の恋愛を引きずって十年間も恋をしていないなんて話が信じられなくて、言葉を失った。

「大学で気になるひとぐらいできたでしょ」

「告白をされたことはあったけど、好きになれなかった」

「じゃ、じゃあ社会人になってからは?」

「東京では男ばかりの職場だったからな。こっち来てからは見ての通り、恋愛なんてできる環境じゃないだろ」

「星田さんは——」と言いかけて、口を噤んだ。
 昴が、星田さんのことを現状恋愛対象として見ていないことはよく分かる。だけど、星田さんはきっと昴のことが好きだから、今ここで彼女の恋愛をぶち壊すようなことはしちゃいけないと思った。
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