きみと、まるはだかの恋
「簡単だろ」

「そうだね。ハサミとかも使わなくていいんだ」

「そうそう。ほら、波奈もやってみ」

 促されるがまま、甘そうなりんごを見つけて昴と同じように手首を捻ってみる。稲を収穫した時とは違って初心者でも簡単に採ることができて嬉しい。

「お、いいじゃん。ちょっとそれ貸して」

 昴に言われてりんごをはい、と手渡す。自分のりんごと私のりんごを二つ手にした昴は、二つのりんごを私の両頬に押し当てた。

「ほら、これ波奈のほっぺみたい」

「え、ちょ、何言って!? ばか!」

 二つのりんごを取り上げると、けたけたと笑っている昴に投げるポーズをとる。さすがに実際に投げるのは踏みとどまって、むっとした表情で彼を睨んだ。

「そんなに怒んなくてもいいじゃん。面白かっただけだって」

「恥ずかしいからやめてって」

 頬を膨らませて怒ると、また「りんごみたい」と笑うのでぷいっとそっぽを向いた。
 昴と一緒にいると、高校時代に戻ったみたいに感じるな。
 お互いに茶化し合って、ばかとかあほとか、小学生の悪口みたいなことをたくさん言ってしまう。
 私たちはそれからも、ふざけ合いながらりんごを収穫した。いくらでも採っていいと言われたので、制限時間を決めてどちらが多く採れるか、なんて遊びを交えながら。久しぶりに童心に帰ったようにはしゃいでいた。
 そろそろ終わりにするかー、と遠くから籠にいっぱいのりんごを抱えた昴が私に声をかけた時だ。
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