きみと、まるはだかの恋
 りんごの木の下に残された私と昴は、澄み渡る空の下、どっと息を吐き出す。

「はあ……。さっきの野次馬、びっくりしたな」

 こういうことに慣れていないであろう彼は、両肩をぐるぐる回しながら私のほうを振り返る。

「う、うん。でも……守ってくれて、ありがとう」

「いや、当然のことをしただけだけど。……波奈があんなふうにコンテンツ化されて、消費されるのを見てらんなかった」

“コンテンツ化”
“消費される”
 
 昴の口から飛び出してきた言葉が、私の胸を深く穿つ。
 そうか……私、ずっとそういう世界で生きてきたから気づかなかった。自分の生き様をコンテンツとして消費されるのって、当たり前のことじゃない。むしろ、人生でそんなことが起こることのほうが少ない。

「昴——」

 昴は、どういう気持ちで今まで私が役場に足繁く通い、SNSを更新するのを眺めていたのだろうか。呆れているのかと思っていたが、本当はそうじゃなかったのかもしれない。

「ごめん。出過ぎた真似をしてるって自覚はあったんだ。だけど、波奈のことが心配でさ……。ここんところ毎日役場に行ってるだろ? その、だめとは思わなかったけど、星見里に来てまで、やっぱり自分をコンテンツにしないと生きていけないのかなって心配してた。波奈が自分を切り売りすることで収入を得ているのももちろん理解してるつもりだった。でも俺は、単に波奈の友達として——いや、違う。好きなひとが、画面の向こうの世界にばかり目を向けて、俺のことは二の次、三の次なんじゃないかって思うと、不安だった」
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