きみと、まるはだかの恋
“好きなひと”
 
 昴が確かに私のことをそう呼んだ。聞き間違いじゃ、ないよね……? 昴が心配していたのは、私がデジタルに依存していたことそのものだったはずなのに、いつのまにか、私の気持ちが自分に向いていないって感じて、不安に思っていたの?

「なに、それ」

 なんだろう、この感じ。胸にとくりと灯火がともっていく。温かくて切なくて。かつて彼に抱いていた気持ち以上に、私の中で燃え上がる恋心が、爆発しようとしていた。

「昴の気持ちも、りんごの赤色と一緒だったってこと?」

「え?」

 分かりにくい喩えを口にしたのは、もちろん直接言語化するのが恥ずかしかったからだ。 
 昴は、きょとんと目を丸くして、それから「ふっ」と吹き出して笑った。

「まあ、そういうことだな。俺、波奈のこと好きだったよ。過去形じゃない。今も、好きだ」

 まっすぐな彼の気持ちを受けて、心の隙間が幸福で満たされていくようだった。 
 ああ、そうか。私、ずっと何かが足りないと思っていたんだ。足りないのは、好きなひとからの「好き」の気持ちだった。どんなに新しい恋を始めても、昴への気持ちはずっと眠っていたんだから、満たされるはずがなかったんだ。
 
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