きみと、まるはだかの恋
「私も好きだよ。十年前から好きだった」

「それ、なんかいいな。十年愛ってか」

「昴も一緒でしょ。てか今更遅すぎっ」

「遅すぎなんてことはないだろ。今からでも十分間に合うよ」

 何がどう「間に合う」のか、詳細を聞かなくてもまあなんとなくは想像がついた。

「でも昴、大丈夫? 私と一緒にいたら、さっきみたいなこと度々起こるよ。きっとさっき写真撮られたの、今晩にはSNSに上がってると思う。いい感じに昴と一緒のところをさ、こう恋人っぽく編集してあることないこと書かれるんだよ」

「別に、気にしねえ。それに俺たち今日から恋人だし、間違ってないじゃん」

「え!?」

 今日一番の驚嘆の声を上げた。昴は、「なんだ、恋人にならねえの?」と不思議そうな、それでいて意地悪そうな表情を浮かべている。

「な、なる! なるなる! 恋人っ」

 自分で面と向かって「恋人」と口にするのがこんなに恥ずかしいことなのか——今の私の顔も、きっと木になっているりんごと同じくらい、いやそれ以上に真っ赤になっていることだろう。

「お、おう。じゃあ、あたらめてよろしくな。波奈」

「……はい。よろしくお願いします」

 まるで結婚の申し入れを受け入れたかのような恭しいやりとりに、むず痒さを覚えた。昴は「そういえば」とまださっきの話が終わっていなかったように続ける。

「もし……波奈が嫌じゃなかったら、の話なんだけど」

「え、なに?」

 ひどくあらたまった物言いに、私はきょとんと聞き返す。

「その、さっきみたいに波奈がこれからもプライベートを勝手に抜き取られて、コンテンツ化されてるのが俺には耐えられない。だからさ……オフラインでも輝ける場所を、一緒につくらないか?」

「え?」

 どういうことだろう。
 オフラインでも一緒に輝ける場所?
 昴が言わんとしていることがよく分からない。
 目を丸くしたままの私を見て、昴はニッと歯を見せて笑った。
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