きみと、まるはだかの恋
 仕入れ先の話が終わると、するすると計画が進んでいく。最初、昴にカフェをつくりたいと言われたときは現実問題としてできるのかどうか分からなかったが、こうして具体的なことを詰めていくと活路が見えてきた気がする。
 と、ちょうどそのときお店の扉がカラランと音を立てて開き、一人の人物が入ってきた。子どもだ。黄色い帽子を被り、ランドセルを背負った女の子がタタタッと店の奥までやってくる。

「あ、おかえり(つむぎ)

 レジ奥から三上さんがひょっこり顔を覗かせる。女の子——紬ちゃんは「お母さんただいま!」と屈託ない笑顔を浮かべて返事をした。

「三上さんのお子さんですか?」

「ええ、そうよ。小学一年生です。紬、挨拶して」

「こんにちはー! 三上紬、七歳です!」

 元気のよい挨拶に、心地よさを覚えて私も昴も「こんにちは」と自然と笑って返した。

「昴お兄ちゃんだー! こっちのお姉ちゃんは昴お兄ちゃんのカノジョ?」

 なんだ、昴は知り合いだったのか。
 と驚いている場合ではない。
 小学一年生に「彼女?」と聞かれて顔が熱く火照る。この村のひとは大人だけじゃなくて、子どもも私と昴の関係を勘繰ってくるのか。ぐぬぬ、と答えに窮していると三上さんが「こらこら」と紬ちゃんをたしなめた。とはいえ、前回は三上さんも同じことを聞いてきたような……。あの時とは関係の変わっている私たちだが、ここは曖昧に笑って誤魔化しておく。

 紬ちゃんは「教えてくれないってことはそういうことだー!」とませたことを言う。いったいどこでそんなことを学んだんだろう。三上さんも「やっぱりそういうことなの?」と語尾に「♡」をつけて聞いてくるし。昴も「いやいや」と困ったように笑っていた。
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