きみと、まるはだかの恋
「……」

 滝川社長の、『滝川工務店』の社長としての誇りがその言葉や発言の重みからひしひしと感じられた。滝川社長はきっと、私たちがカフェのコンセプトとして“デジタルとリアルをつなぐ場”と伝えたとき、すでに違和感を覚えていたのだろう。星見里にデジタルを積極的に取り入れることは、彼の矜持にかかわることだったのだ。
 確かに、長年星見里で暮らしてきた滝川社長の主張も分からなくはない。
 もしかしたら星見里のことを発信することで都会のひとに、この場所を踏み荒らされたくないという気持ちがあるのかもしれない。
 でも……だけど。
 私は、昴と顔を見合わせる。
 私たちのカフェは、私たちがお互いの価値観の違いを認め合い、星見里の魅力を日本全国に伝えようという想いでつくろうとしているものだ。
 簡単に譲るわけにはいかない。

「お言葉ですが、滝川社長。これを見てください」

「あ?」

 私は、星見里で暮らし始めてから日々発信していた星見里についての魅力を伝えるSNSの投稿のスクショを、滝川社長に見せた。
 限られた場所でしかWi-Fiが繋がらないので、SNSでの投稿を振り返るために、こうしてスクショで保存しておいたのだ。
 
「これは、私が星見里の魅力について発信したSNSの画像です。実は私、東京で美容コスメのインフルエンサーをしているんです。もともと私のファンだったひとたちは、星見里になんて興味がないひとばかりだったと思います。でも、こんなにたくさんの嬉しいコメントをいただいたんです」
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