きみと、まるはだかの恋
 私はお店の前に並ぶお客さんに向かって、自然と笑顔を浮かべる。

「みなさん、本日は『Dining Café 花と星』にお越しくださいまして、ありがとうございます。『Dining Café 花と星』は“星見里の自然を味わえる、デジタルとリアルをつなぐカフェ”をコンセプトにしたお店になります。ぜひ、この場所の自然を存分に味わって、よければSNSなどに投稿よろしくお願いします。投稿してくださった方は、本日のご飲食代から10%割引サービスもございます。店内は通常のカフェ席と、プラネタリウム席に分かれています。プラネタリウム席はお部屋が暗くなりますので、ご注意ください。それでは、お好きな席にお座りください」

 私がお店のコンセプトとSNSサービス、プラネタリウム席について説明すると、お客さんがわっと拍手をしてくれた。温かな光景に思わず涙が滲む。

「私、窓際のこの席がいい〜!」
「コンセントあるじゃん。最高」

「お母さん、えりこちゃん、ゆうとくん、プラネタリウム席に行こう!」
「行きたい!」
「はいはい、みんなで行きましょうね」

 みんなが、それぞれの希望に沿って席を選んでいくのを眺めては、愛しい気持ちがあふれてきた。感慨に浸っていると、昴が厨房から顔を出して「波奈、お水とおしぼり出して!」と指示をしてくる。

 そうだ。感動している場合じゃない。私はホール担当。一人で回さなくちゃいけないんだ。わたわたしながらお盆に大量のお水とおしぼりを乗せて、順番に席を回っていく。その度に「オープンおめでとう」「ハナちゃん一緒に写真撮ってください」などと声をかけられるので、一つ一つに応えていくとかなりの時間を消耗した。でも、せっかく来てくれたお客さんの言葉は一つも無碍にしたくなかった。決めたんだ。今日はどんな要望にも応えてみせると。今日来てくれたお客さんにはみんなに笑顔になってほしい。その一心でお水を運び、注文を聞くところまで済ませた。
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