きみと、まるはだかの恋
「あら、城山くんじゃないかい」

 村長である木川さんが、そのひとを——昴の名前を呼んで、にっこりと笑みを浮かべた。

「木川さん、こんにちは」

 久しぶりに聞く昴の声はどこか遠くから響いている感じがするのに、確かな懐かしさが込み上げる。目の前の彼から発せられていることは疑いようもなかった。
 昴は木川さんに挨拶をしながら、私のほうへと視線をずらす。そして、ふう、と大袈裟に息を吐いて吸い込んだのが分かった。

「やっぱり、波奈、だよな?」

 変わらない。声も、目も、息遣いも、照れた時に鼻の頭を掻くその仕草も、何もかも。
 
「昴……なんで」

 口からこぼれ落ちた言葉は、“ハナ”のものではなかった。海野波奈、私自身の疑問が、目の前の男へとぶつけられる。

「え、なになに? もしかして知り合い?」

 北村さんが私と昴を交互に見つめながら、私たちの関係を解釈しようと努める。木川さんも、中井さんも、状況が飲み込めずに「えっと」と口籠った。

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