きみと、まるはだかの恋
「ここを歩いてると、いろいろ思い出すの。通学路だし、毎日通る道だけど……。思い出が積もっていくのがいいなって」

 柄にもないことを言っている自覚はある。普段、友達グループの中では明るいキャラクターで通っているし、感傷的になるのも自分の性分とは違う。だけど、昴の隣にいる時はいつだって調子を狂わされている気がする。

「なんだそれ、らしくないな。でもまあ、気持ち分からんでもないわ」

 ふっ、と笑みをこぼして鼻の頭を掻きながら言う。彼が照れくさくなっている時の仕草だ。触れてしまいそうな距離にいるのに、なかなか触れられない。そっと、彼の左手に自分の右手を伸ばす。もう少しでこの手をとれる——その刹那、彼のスマホがブッと震えた。

「あれ、まなかからだ」

「まなか?」

 まなか、とは女子バスケットボール部の後輩である幸村(ゆきむら)まなかのことだ。ふわふわの長い髪の毛をお団子にして練習をしている。身長が低くて小動物のような見た目をしている彼女は可愛らしく、バスケ部の間では癒し的な存在だ。私の同級生が彼女のことをぎゅっと抱きしめて「まなかは可愛いねえ」とよしよしと頭を撫でるのも日常茶飯事だ。
女バスと男バスは隣同士で練習をするので、男女の垣根を超えて交流がある。私と昴がこうして仲良くなっているのもそのためだ。
 だから、もちろん先輩や後輩も男女の区別なく関わることが多いのだけれど……。

「なんだろうな。バスケの相談か?」

「相談? なんで昴に」

 バスケのことで相談があるなら、普通なら女子の先輩に相談するだろう。
 でもまなかは昴に電話をかけてきた。きっとバスケの相談なんかじゃない。
 うっすらと感じとる、まなかの真意。昴はそれに気づいているのかいないのか、少し考える素ぶりを見せて、通話ボタンを押した。
 この時にきっと、私の恋は終わったのだ。
 ぬくもりを掴むことができずにすり抜けた手が宙を彷徨った。

 昴がまなかと付き合い始めたのは、それからおよそ半年が経ち、私たちが高校三年生になった頃だ。
 告白をしたわけでもなく、消化不良のまま、青く燃えていた恋の炎がしぼんでしまった。  
 大丈夫。こんな恋はいつか忘れてしまうから。
 初恋は叶わないっていうじゃない。
 だから仕方がない。そういう運命だったんだから。
 悲しくなんて……ない。

 間違いなく、昴が私にとっての初恋だった。
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