きみと、まるはだかの恋
「こんにちは〜」

 こういう時、田舎なら「ごめんください」と言うのだろうか——なんて、生産性のないことを考えた。

 扉を開けてから、しばらく誰も姿を現さなかった。 
 さっきの食堂と同じようにもう閉まっているのか、それか今日は休業日かもしれない、と考えていたところで、二階から「はあい」という女性の声が聞こえてきた。

「お待たせしてごめんなさいね。まあ、綺麗な方。おひとり?」

「は、はい」

 階段から降りてきたのは、優しそうな目をした四十代ぐらいの女性だった。
 さらりとした綺麗な黒髪が特徴的で、推定年齢以上に若々しく見える。そういえば、村長の木川さんも全然老いを感じさせない見た目をしていた。星見里の住人は皆、若々しいひとばっかりなんだろうか。アラサーの私のほうがなんだか歳を食っているように感じられて、自然と首をすくめた。

「お好きな席にどうぞ。今、お冷をお持ちしますね」

 女性に促されるまま、席を選ぶ。どこも空いているが、なんとなく座敷にいちばん近いテーブル席についた。

「はい、どうぞ。メニュー表はこちらになります。後ほどまた伺います」

「ありがとうございます」

 当たり前だが、接客はいたって普通だ。ただ、都内の激混み喫茶店に比べると、ゆったりとした時のなかで落ち着いてコーヒーを淹れてくれるような気がする。都会の喫茶店は働いているスタッフからしたら魔窟のようなものだろう。
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