きみと、まるはだかの恋
 星空ツアーは十九時から開始らしい。
 十七時半ごろ『喫茶きこり』を出た私たちは、歩いてロープウェイ乗り場に向かった。星空ツアーはロープウェイで標高1,100メートル地点まで上った場所に広がる『星見高原』で行われるそうだ。乗り場は役場よりも東側。西側地点にいた私たちは、三十分以上歩き続けた。

「こんな村にロープウェイなんてあるんだ」

「こんな村とは失礼だな。歴とした村だぞ。近年観光地として人気が上がってきてるんだ」

「へえ、知らなかった。てかなんで昴は星見里に移住してきたの?」

「今の波奈とほとんど同じ理由。都会での生活に飽きたから」

「む、私は飽きたとは言ってないよ。ただちょっと疲れてしまっただけで……」

 東京での生活を思い出してげんなりする。せっかく星見里に来て自然の風景に触れて、心がやわらかく(ほど)けていくのを感じていたのに。普段の殺伐とした生活が、どこか遠い宇宙の話のように思えてくる。

「どうしたの。なんか面白いことでも思い出した?」

「え?」

「いや、なんか笑ってるから」
 
 そう言われてはっと気づく。自分の口から乾いた笑みがこぼれていることに。

「ここでの時間が、東京にいるよりずっとゆったり流れてるような気がして。同じ日本なのに、全然ちがう世界に来たみたいだなぁって思って……」

 感じたことを素直に口にする。
 それが昴には意外だったようで、彼は目を丸くしていた。
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