きみと、まるはだかの恋
「へえ、アナウンスもあるんだ。ちゃんとしてるね」

「アナウンスは一年前から始めたんだ。ちょっとずつ観光客も増えてきたからさ」

「増えてきたって——まだ昴だって住み始めて三年でしょ?」

「そうだけど。もうここで生まれ育ったんじゃないかってぐらい馴染んでる」

「生まれ育った……へえ」

 そう言われると、なんだか町田で私と過ごした三年間がなかったかのような気持ちにさせられて、複雑な気分だった。

「標高1,100メートル地点まで行くから、かなり寒いと思うけど大丈夫?」

「うん、たぶん」

「分かった。寒くなったら遠慮なく言ってな?」

「……ありがとう」
 
 天空に向かって揺られながら、昴のちょっとした優しさに触れる。彼のそういうさりげない気遣いが好きだった。ううん。今もきっと、そういうところは好きだ。恋愛感情抜きにして、彼とは付き合いを続けたいと思わせてくれる不思議なオーラがあった。
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