きみと、まるはだかの恋
「そりゃまあ、普段俺が着てるからな」

 鼻の頭を掻きながら彼がそっぽを向く。私たち以外にロープウェイに乗ってやってくるお客さんたちを見て、「俺そろそろ仕事入るから、こっちで待ってて」と先ほどの建物の中に案内された。
 私が着ているものと同じ『星見里星空ツアー』とロゴの入った上着を着た彼が、「受付はこちらになります」と笑顔で接客を始める。彼が仕事をしている姿を目にするのは新鮮で、一人で待っている間ずっと、とくりとくりと心音が鳴るのを感じていた。
 そして待つこと十五分。
 お客さんたちがわらわらと集まり、ようやく星空ツアーが始まった。
 ツアーコンダクターは昴と、それからもう一人私たちと同世代の女性が行うようだった。胸のところに名札が付いていて、「星田(ほしだ)」と書かれている。星見里星空ツアーの星田さん。適材適所という言葉が頭に浮かんだが、たぶん使い方は間違っている。

「みなさんこんばんは! 星見里星空ツアーへようこそ! 私は今回みなさんの星空観測のお手伝いをさせていただくツアーコンダクターの城山昴です。そしてこっちは——」

「星田亜美(あみ)です!」

「はい。というわけで、我々がみなさんに星見里の星について解説いたします! 早速広いところで観測したいと思いますので、ついてきてください」

 ツアーコンダクター・昴は私と話している時とはまるで違うノリノリでキレの良い喋り方をしていた。すごい。プロなんだ、と思い知らされる。
 二人について、ぞろぞろと観客たちが高原の真ん中のほうへと歩いて移動する。夜の草原はどこか幻想的で、異世界に迷い込んだかのようだった。
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