きみと、まるはだかの恋
「みんなのおすすめのコスメもぜひ教えてね!」

 三十分……いや、一時間ほど喋り倒しただろうか。時折コメントを拾い上げる時間も挟んで、なんとか呼吸を整えつつ本日のインライを終了した。深夜二時過ぎ。さすがに夜更かししすぎだ。
 
「あー疲れたっ」
 
 スマホを充電器に繋いでベッドに横たわると、ふかふかのマットレスに身体が沈んでいくような感覚に陥る。
 良かった。すぐに眠れそうだ……。
 一日の終わりに、どっと込み上げる疲れは新卒から勤めていた広告会社のそれとはまた違った質のものだ。あの頃は、そう。身体的な疲れのほうが精神的な疲れよりも勝っていた。朝九時から夜八時ごろまで、ひどい時は夜十時を過ぎるまで残業をしていたんだけど……。それでも、今のほうがよっぽど疲れているな、と思う。

「サラリーマンよりも楽になるって思ってたのになぁ」

 そんなもの、幻想でしかなかった。
 フリーでの活動は、確かに時間的には融通が利く。自分がやりたい時に仕事ができる場合がほとんどだ。でもその代わり、不安定なことが多い。社会保険や雇用保険はないから、急病や妊娠・出産して休んだ場合は単に収入が減るだけだ。もちろん他で保険に入っておけばいいのだろうけれど、今の私にそこまで考える余裕がない。幸い収入は多いほうだから、なんとかなっているけれど。
 でもこの収入だって、いつなくなるか分かったもんじゃない。
 リスク管理——今まであまり考えていなかったが、会社員の頃は会社がおのずと背負ってくれていたのだ。大海原に放り出された私は、身一つでなんとか頑張っていくしかない。三年目でも、いつ訪れるかわからない危機にはずっと怯えているし、慣れない。だからこそ、今私のファンでいてくれるひとたちは離れて行かないように、ファンサービスも仕事もどっちも大事にしなくちゃいけなかった。それが、こんな時間までインスタライブをする生活につながっている。

「ばかみたーい」

 って、自身を揶揄するだけだならいくらでもできた。
 ばかでも考えなしでも、生きていかなくちゃいけないのだ。
 
「とにかく寝よ……」

 寝る前に考え事に耽るのはあまりよろしくないらしい。何かのサイトで見たことがある。いつどこで見たんだろう。思い出せない。でも、誰に教えられなくたって、体感的になんとなく分かるよ。寝る前に考えすぎたらどんどんマイナスな方向にいっちゃいそうだから。
 できるだけ何も考えないように、深呼吸をして布団に身を沈める。
 疲れているから簡単に眠りの世界にどっぷり入り込むことができた。
 おやすみ、今日の自分。
< 6 / 186 >

この作品をシェア

pagetop