きみと、まるはだかの恋
「ああ。片付けようか」

「はーい。あれ、その方もしかして城山さんの彼女さんですか?」

 星田さんは、予想だが私たちより二、三歳若い女性で、ツアーの時から元気で溌剌としたひとだなと思った。どことなく、『ベストツーリズム』の中井さんに似ているところがある。ショートカットの髪の毛は外はねのボブで、まつ毛はくるんと上を向いている。こんな田舎にもこんな若い女の子が暮らしているのかと失礼なことを思うが、昴だって彼女と対して年は変わらないのだ。別におかしなことじゃない。

「いやだから違うって!」

『喫茶きこり』の店主三上さんといい、ロープウェイの受付の長嶋さんといい、星田さんといい、なんでみんな私と昴のことを恋人だと思うのだろう。
 つい勢いでつっこんでしまったが、星田さんはきょとんとした顔で私を見ている。
 それもそうか。彼女は初めて質問しただけなのに、「いやだから」なんて強い言葉で否定されたんだから。

「えっと、あの、ごめんなさい。今日一日で同じ質問をされすぎて、参ってるというか……」

「いえー! お二人がお似合いだから、みんな彼氏彼女かな? って思うんですよ〜」

 明るい調子でフォローをしてくれる星田さんだが、どことなく嬉しそう。
 もしかしてこの子、昴のこと……。
 私は、ちらりと昴の顔を見やる。彼は、星田さんの気持ちに気づいているのかいないのか、「そんなことより、片付けしよう」と話を逸らした。

「はあい」

 星田さんが猫撫で声で返事をする。
 やっぱりそうに違いない。
 昴は昔から年下の女の子によくモテる。
 私が彼への恋心を諦めたのだって、後輩のまなかと付き合いだしたからだ。

「波奈、ちょっと待っててくれる? すぐ終わるから」

「う、うん」

 昴が声をかけてくれて、彼が星田さんと道具を片付けに行く間、私は隅のほうにちょこんと佇んでいた。二人が他愛もない話をしている声が嫌でも耳に届いて、なんだか高校時代に戻ったようだと感じてしまった。

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