きみと、まるはだかの恋
「もう、なにこれ。全然うまくできない!」

 私がしゃあしゃあと声を上げると、昴が「はは」と小さな子どもを眺めるように笑った。

「波奈、力入れすぎだよ。鎌はこう、滑らせる感じで」

「滑らせようとしたら手が滑るの」

「それなら逆にもう少しだけ力を入れてみたら? 稲を持っているほうの手も適度に力入れて」

「こ、こう?」

 言われた通りに力加減を変えてみると、確かに鎌の刃がすっと稲に入るのを感じた。

「そうそう! あと、刃はまっすぐ、地面と平行になるように向きを変えてみて」

 昴がここで鎌を持つ私の手首にそっと触れて、鎌の向きを修正してくれる。その指の温もりに頬が一瞬熱くなる。
 ち、近いんだけど……!
 彼の身体が私を覆うようにして密着している。ドキドキドキとどんどん心臓の音が速くなっていくのは私だけなんだろうか。昴はこの状況でも平常運転しているというふうに、「おお、そんな感じだよ」と私を褒めてくれる。だけど、ふと触れた昴の腕は思った以上に熱く、ちらりと横目で彼の顔を見ると耳も真っ赤になっていた。
 もしかして私と同じ気持ちでいてくれる?
 それとも、農作業で汗を流して身体が熱くなっているだけ?
 知りたい。だけど、さすがにそんな恥ずかしい質問はするわけにもいかず、私はただ稲を刈る手に力を込めた。

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