きみと、まるはだかの恋
 昴にコツを教えてもらったおかげで、さっきよりはスムーズに稲を刈れるようになった。が、それででもペースは遅く、なかなか思うように進まない作業にイライラが募る。対して昴はサクサクと作業を進めていく。彼の足元にどんどん積み重なっていく稲。私は、まだ作業を初めて二十分ほどしか経っていないのに足腰がすでに痛くなるのを感じていた。

「ねえ、この作業いつまでやるの? 腰痛いし、効率悪すぎ。てかずっとスマホも圏外だし、そろそろ私、やっぱり自分の仕事のことも考えないと……」

 つい、言わないと思っていた愚痴がこぼれ出た。
 昴は一瞬自分の手を止めて私を一瞥してから、「あのさ」と呆れ口調で言った。

「効率とかってさ、都会の話だろ? ここでは稲と対話しながら作業するぐらいがちょうど良いんだよ」

「稲と対話? なにそれ、ちょっと引くかも」

 昴への恋心を自覚したはずなのに、いや自覚したからこそ、彼が自分とは全然違う価値観のもとで生きていることを痛感して無性に腹が立った。
 高校生までは同じ場所で生きてきたじゃん。
 社会人になって、昴だって三年前まで東京で働いてたんでしょ?
 まだたった三年だよ。都会での生活のほうが長かったんじゃないの。

「引かれてもいいよ。これが俺の仕事だし、俺の生活だから」
 
 昴は真剣なまなざしでまた稲と向き合う。私はそんな彼の言葉を聞こえないふりをして、つなぎのポケットからスマホを取り出した。
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