きみと、まるはだかの恋
「これで刈るの? ほら、あのなんとかいう機械じゃなくて?」

「コンバインのこと? まあ大規模な田んぼだとコンバインのほうが楽だけど、これぐらいの広さだったら手でいけるよ。ここらは斜面も多いし、手作業のひとのほうが多いかな。もちろん、コンバインでやるひともいるけど、設備投資費もかかるし俺は手作業派です!」

「ふうん。そんなものなんだ」

 農業の常識なんてこれっぽっちもない私は、昴の説明を聞いて「手作業なんてコスパ悪くない?」としか思わなかった。
 私だったら、手作業なんて労力のかかることをするぐらいなら、お金をかけて機械を導入するかな。だってそのほうが効率も良いし、疲れないだろうし……。
 と、さすがに今ここで文句を言うわけにもいかず、渡された鎌をどう持ったらよいか分からずにとりあえず刃の部分を下に向けているだけだった。

「俺も一緒にやるから、隣で見ながらやってねー」

 軽い調子で昴は目の前の稲をまとめるように鎌をひっかけて、もう片方の手で稲の束をぎゅっと持って鎌を動かした。そのまま鎌ですっと稲を切ると、「こんな感じ」と私に稲の束を見せてくれた。

「何回か刈って、ある程度の量になったらこんなふうに麻紐で縛ってまとめておく。あとでしばらく乾燥させて農具小屋に運ぶから、今日はひとまず刈るところまでしよう」

「う、うん」

 手順自体はそこまで複雑じゃない。とにかく稲に鎌をかけて束でぎゅっと刈るのだ。
 私は、戦闘でもするかのように目の前の稲をキッと睨む。黄金色に輝く田んぼはまるで写真にフィルターをかけているかのように美しいけれど、泥の感触の気持ち悪さに、早速イライラが募る。しかも、実際に稲に鎌をかけて刈ろうとしたところで、昴のように綺麗に切れないことに気づく。手が滑ってしまうというか、稲をぎりぎりと刻むように刃が動いてしまう。イメージではもっとスパッと切れるかと思っていたので、予想外の展開にむっとした。
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