きみと、まるはだかの恋
「はあ。やっぱり電波ない。一昨日発売した雑誌の反響とか知りたいのに。YouTubeのコメントだって見れないじゃん……」

 今日一日は自分の仕事のことを忘れても大丈夫。
 ここで作業を始める前はそう思っていた。でも、思っている以上に、私はスマホとデジタルに依存し切った生活をしていたらしい。そんなに簡単に、二日間もデジタルから離れられるわけがない。ネット環境があるということが当たり前だった私が、ネットの繋がらない場所に来たらこんなにも調子を狂わされるのか。昨日は初日だったからなんとかなったけど、二日目の今日、やはり普段の自分の生活のことを思い、焦りが生じてくる。

 そんな私の心中を見透かしたのか、昴が「波奈」と私の名前を呼んだ。

「十分でいいからスマホのこと忘れてみ?」

 稲を束で括って地面に置きながら、彼は穏やかな顔で言った。

「この稲、俺が春に植えて、毎日水やって、虫と戦って、ようやくここまで育ったんだ。フォロワーの『いいね』より、こいつらの輝き、めっちゃ価値あると思わない?」

「フォロワーの『いいね』より……?」

 私はむっとした。

「私が一回投稿するだけで、何十万っていうお金が動くんだけど」

 いやらしい言い方だと自分でも思った。でも、こうでも言わなければ昴には私の気持ちが分かってもらえない。そんなふうに感じてしまって。

「お金? ああ、インフルエンサーだもんなー。いいな、SNSで楽に稼げて。でもスマホ依存になるぐらいなら、俺はこうして自然の中で働いてるほうがいかな。そりゃ、収入は波奈よりずっと低いと思うけど。今の波奈、何かに追われてる感じがしてなんか可哀想だ」
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