きみと、まるはだかの恋
「……っ!」

 そこまで聞くのが限界だった。
 私は持っていた鎌をその場にカタンと落として、手足に泥をつけたまま田んぼから飛び出した。

「私、もう帰るっ!」

「おい!」

 突然、私が走り出したものだから、昴が驚いて私の背中に「波奈どこ行くんだよ」と声をかけた。が、私は振り返らない。そのまま田んぼの畦道を飛び出して、右も左も考えずに走り出した。
 SNSで楽に稼げていいな?
 何かに追われてる?
 先ほどの昴の言葉がフラッシュバックして、胸がツンと痛い。
 そりゃ、インフルエンサーになってから畑仕事みたいに重労働をして働いたことはない。泥まみれになったり、夏の暑さに命の危機を感じたりしたこともない。
 でもだからと言って、インフルエンサーの仕事が決して楽なわけじゃないのに。
 毎朝早起きをするのは農家と一緒だ。メイクも髪の毛も綺麗に整えなければ、みんなが私を笑い者にするようで、毎日必死だ。最新美容コスメの情報を追いかけるのだって実は結構大変だし、撮影はもちろん、動画の編集作業なんて肩は凝るわ目は疲れるわで常に肩こりと眼精疲労が溜まっている。

「私だって、依存したくて依存してるわけじゃないんだよ……」
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