きみと、まるはだかの恋
「はーっ」

 考えるだけでめまいがするほど忙しい。
 だから、先の予定は必要以上に考えず、目の前の予定を淡々とこなしていく。時に心の無にして、それでも表情だけは笑顔中心に。
 日々心掛けてはいるけれど、忙殺されているとつい気が緩んで顧客の前で顔が険しくなることがあるから、毎朝鏡の前で笑顔をつくる練習をしている。なーんて、だれにも言えないけれどね。

 情報収集まで終わったところで、LINEの通知が二件来ていることに気が付いた。こんな早朝に誰だろう――不思議に思いながら画面を開くと、恋人の山城裕(やましろゆう)からメッセージが届いていた。二件目のメッセージが「スタンプを送信しました」という一文だったので、なんだろうと思いつつ裕とのトーク画面を開く。

【波奈ごめん、やっぱり俺たち別れよー。おれ、重いひと苦手だしー】

「は!?」

 寝ぼけていた瞳が、カッと見開かれるのを感じた。
 重い内容なのに軽い口調のそのメッセージがぼやけていた脳みそを冴えわたらせる。
 別れようってなんで……?
 しかも、「別れよー」ってなによ。「よー」って。送信時間も気になる。午前三時三十二分。そんな時間に送ってくるってさ、他の女の子と寝てて、乗り換えようって軽いノリで思ったんじゃないかって邪推してしまう。
 裕とは付き合い始めてまだ三ヶ月しか経っていない。昔から、「男女交際は三の倍数の年月に危機が訪れる」なんて言われているけれど、そんなにぴったり三ヶ月でふられるとは思ってもみなかった。しかも私たち、いい大人だよ? 私は二十八歳で、彼は一つ上の二十九歳だった。いい年した大人が、たった三ヶ月でお別れになってしまうなんて。
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