きみと、まるはだかの恋
 初恋の人に会って、またその人に恋をして。
 昴との時間が私にとって温かいものになる気がして、胸がときめいていた。
 でも違うのかもしれない。
 私が思っている以上に、昴はヘタレだし、ひとの仕事を馬鹿にするし……。
 私、そんな人に恋をしたんだろうか。
 昴を好きだと思った気持ちは、やっぱり間違いだった。
 そんなふうに割り切れたらいいのに、それでもまだ、彼のことを気にしている自分がいた。

「昴のばか……」

 嫌いになれたらいいのに。
 嫌いになって、もう二度と会わないと叫んで東京へ帰れたらいいのに。
 心のどこから昴が私を探しに来てくれないかな、なんて期待してしまっている。
 昨日、昴が目をきらきらさせて星空について語っていたのを思い出す。昴が作ってくれたカレーの味、だし巻き卵の味。
 そっと口付けをしたときの感触——。

「ふふっ……」

 勝手に自分だけ盛り上がって、恋心に目覚めて、馬鹿なのは私だ。
 アラサーにもなってSNSで即席彼氏をつくって、別れて、また落ち込んで、振り出しに戻る、中高生みたいな恋愛を繰り返している馬鹿は私なのだ。
 一度考え出すと、自分がどうしようもないヘタレにしか思えなくなって、肌に触れる秋風に溶けて消えてしまいたくなった。空を見上げると、私のこの心とは裏腹に突き抜けるような青が広がっている。名前も知らない鳥が群れをなして飛んでいるのを見て、自由でいいなあ、と思う。
 どれぐらい走っただろうか。
 星見里の地理がほとんど頭に入っていない私は、右も左も田畑しか広がっていない大自然の中で、ぽつんと一人取り残されたような錯覚に陥る。

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