きみと、まるはだかの恋
「ここ、どこ……?」

 星見里は山で囲まれている。東西南北は、太陽の位置からしてなんとなく把握できるけれど、背の高い建物が何もなく、完全に方向感覚が失われていた。
 見渡す限りの田畑と、頭上には晴天の空。吹き始めたばかりの秋風が心地よくて、ふつうに歩いているだけなら最高のお散歩日和、お散歩コース。だけど、私の心はどんどん鈍色に曇っていく。

「す、昴……」

 自分から避けたはずなのに、気がつけば口から彼の名前がこぼれ落ちていた。

「昴……どこ……?」

 小さな子どもが親を探すような心許なさで彼の姿を必死に探す。「もう帰る」なんて言っておいて、電波がないせいでバスの予約ができないのは昨日の時点で学習済みだ。にもかかわらず、無防備に飛び出してきてしまった。

「……」

 歩いても歩いても、変わり映えのない景色にうんざりしてくる。
 本当に誰もいないの……?
 いくら人口が少ないとはいえ、昴のように畑仕事をしているひとがいてもおかしくないし、民家だってちらほら見える。それなのに、星見里にはやっぱり自分しかいないのではないかという感覚に恐怖した。
 心細さが募り、気がつけば走ることもやめて歩いていた。後ろから昴が追ってくる気配のようなものは感じられない。完全にひとり。もし今クマに襲われでもしたら確実にやられるだろう。というか、クマなら他にひとがいたとしても太刀打ちできないか……。
 思考があっちこっちへ飛んで、もう自分でも何が何だかわからなかった。どれぐらい歩いたか分からないけれど、何もない道にへたり込む。いつか、誰かが通りすぎるかもしれない。その時に場所を尋ねて、バスの予約のことも聞こう。荷物は昴の家に置いてあるから一度戻らなくちゃいけない。だけどこのままでは元来た道を戻れるかどうかも怪しいから。
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